コーヒーブレイク
京菓子
著者:
ページ範囲:P.721 - P.721
だいぶ前のことではあるが,徳島で学会があったときに,"おみやげ"に菓子を買って帰ろうと駅前の菓子屋で,おばあさんにどの菓子が"おみやげ"によいかと聞いた.どこから来たかというので,京都からだと言うと,京都にお菓子を買って帰るバカはいないよ.京都にはもっともっとおいしいお菓子があるからなと言う.そのときまでは,京都の菓子と言えば,八ツ橋,五色豆,豆板ぐらいしか知らなかった筆者は大変恥ずかしく思い,それ以来京都の菓子に興味を持つようになった.
およそ,何でも現在があるためには過去があり歴史がある.現在の京菓子にも都であった1,000年の歴史がある.京都には御所を中心に公家,貴族があって,それを取り立ててもらわんと技術を練るし,また,各宗教の本山があってお供えへの菓子に取り立ててもらわんと,更にまた茶の湯の菓子に取り立ててもらわんと技術を練ってきたものと思われる.その姿は今でも有職菓子(皇室に献上するもの),供饌菓子(仏に供えるもの),茶道菓子(茶の湯に使用するもの)として残ってはいるが,多くは,この3本柱が1本になって,次の五感に訴えるように作られている.①季節感のある色彩を使用し,いかにもおいしそうだと思わす視覚,②手ざわり,歯ざわり,舌ざわりの良い触覚,③おいしいという味覚,④柚子,生姜,紫蘇,黒砂糖など良い香りの嗅覚,⑤花鳥風月を折り込んだ銘のする聴覚.この五感を適当に刺激してたまらないような余韻を残すのが京菓子である,人の味覚は時代とともに変化していくので,菓子の味もしだいに変化している.そういえば京菓子の甘味も随分減ってきた.興味ある方は「月刊京都」創刊号特集"京菓子"をご一読されたい.