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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術8巻10号

1980年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

前立腺肥大

著者: 田崎寛 ,   実川正道

ページ範囲:P.798 - P.803

 我が国における人口構成の高齢化に伴い,前立腺肥大症は急激に増加している.従来,前立腺肥大症に限らず前立腺疾患は,日本人や東洋人には少ないものと信じられてきた.しかしながら前述の高齢化社会の出現と医療制度の社会化,さらに生活ことに食事の変化は,前立腺肥大症ならびに前立腺がんの急増に関与したものと考えられる.
 前立腺肥大症は本来,老人の病気であるためにその診断と治療に関しては,老人医学の中の一つとして特に手術の適用に関しては問題が少なくない.ここでは具体的な症例をあげその臨床検査成績,治療方針の決定,術後治療後の経過などの検討を通じこの疾患の認識を新たにさせたいと思う.

技術講座 検体の取り扱いと保存

生化学検査

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.804 - P.810

 検体の取り扱い
 生化学検査で取り扱う検査材料は主として血清であるが,目的によっては適当な抗凝固剤を加えて得られた血漿,あるいは全血そのものが用いられるし,またその他の体液(尿,リコール,消化液,胸・腹水など)も対象になる.このような検査材料をいつ,そしてどのようにして採取するかということから始まり,ついでそれらが分析されるまでの間の,いわゆる"検査前管理"の問題は,現場で働く検査技師にとっては分析と同じくらい大切な事柄である.

血液検査

著者: 山本きよみ ,   宮地隆興

ページ範囲:P.811 - P.815

 medical electronics(以下MEと呼ぶ)の開発は,近年めざましく進歩し,目をみはる現状である.従来は疾病に対して完全に客観的情報をうることが困難であったが,電気的方法による生体情報の獲得に努力がなされ,病気の説明や治療計画,治癒判定に客観的情報を基準とした指針が探求されてきた.この要望に応えるために,漸次ピペットや試験管あるいは顕微鏡など簡単な器具が使用され患者の諸成分が測定されるようになってきた.これはまず手動的方法で出発したが,漸次操作を"人間の手から機械"へ移行し,今日ME機器の急激な開発および発展,更にコンピューターをも医学方面に導入して,人とME機器の密接な関係のもとで疾病に対処するという概念に急速に変わってきた.従来の患者診察法は打聴診や視触診の結果と医師の経験とで診断を下し,治療し,病気の経過をみて,治癒判定を行ってきた.今日では疾病はME機器の助けをかりて科学的数値で現わす方向に傾いてきている.
 ME機器を利用することは,従来のように各科の外来や病棟で独自に検査を行っていた状態に変わって,病院(大学病院を含めて)の1か所で検査をすることが能率的で経済的であり,いわゆる検査の中央化,集中化に変わってきたのである.この中央化に伴い,被検検体の扱い方や保存法を正しくすることが要求されてきた.正しい取り扱いや保存は,正確で精度の高い検査成績をうるために不可欠で精度管理や成績の判定に非常に重要なことである.ここでは血液学的検査に関して採血法,坑凝固剤の選択法,検体の取り扱いおよび検体の保存について述べる.

免疫血清学的検査

著者: 鈴田達男

ページ範囲:P.816 - P.821

 一昔前には血清学的検査で取り扱うものは文字どおり血清が主体で,時に血球成分を扱うにしても従属的な位置しか占めていなかった,ところが近年の免疫学,特にリンパ球の働きを主体とする細胞性免疫の長足の進歩により,これまでの血清検査室は大きく変換を迫られ,それに伴って昔のままの血清検査の検体取扱法ではかえって検査に支障を来し,混乱をまき起こしている.本稿では後者の検体の取り扱い方法が従来余りとりあげられていなかったことにかんがみ,血清を対象とする検査と比較して細胞性免疫の検体の扱いを述べたい.

尿(一般,生化学)検査

著者: 折田義正 ,   林長蔵 ,   今井宣子 ,   小川善資 ,   山口賀久 ,   細坪秀夫

ページ範囲:P.822 - P.828

 尿検査の種類によって,検体の取り扱いと保存は変わってくるので,次の三つに分けて述べる.

病理検査

著者: 井上和秋

ページ範囲:P.829 - P.832

 最近,臨床病理特に外科病理の分野が重要視され,従来から言われてきた基礎学科である病理学の一部門としての人体病理ではなく,一つの臨床科として考えられるようになってきた.病理検査成績は単なるデータではなく,診断そのものである.それ故に,より正確に診断するために検体は"生"のままで,採取された検体すべてを病理医にゆだねる必要がある.欧米においては,患者の体から切り離された瞬間から,その検体はすべて病理医の管理下におかれ,手術した外科医による切開すら許されない程である.
 本稿では,手術室で得られる"生"の検体を対象として,その取り扱いについて述べる.但し各検索方法の手技については,その順序を簡単に図示するだけにとどめ,詳しくは各専門書を参照していただきたい.

細菌検査

著者: 播金収

ページ範囲:P.833 - P.838

 臨床検査の実施にさいし,その検査材料が最も当該検査目的に適した,最良の状態で採取され保存されてきたか否かは,その検査成績の結果はもとより,臨床診断に対して重大な影響を与えることは,今さら申すまでもない.特に細菌検査は,検査材料の適否によって,大きく成績の左右されるものであり,採取後速やかに検査に着手する場合と,長時間室温で放置した場合とでは,成績はまったく相反する結果を招き,同一の検体であっても,保存方法の違いによっては,まったく別人の検査成績のごとき結果を示す.最近の臨床診断における検査データの持つウエイトははかり知れないものがあり,検査室が不注意にもそのようなデータを提供した場合,臨床側はこれをよほどのことがない限り疑ってかかることはあり得ない.検査室が臨床側より提供された検査材料に対し,最善の条件で提供されたと信じているのと同様,臨床側もこれに対し,最善の検査結果として受け取るという,相互信頼のうえになり立っているということを銘記せねばならない.臨床検査とは最善の方法で採取された検体を,最善の方法で保存し,最善をつくして検査されるということでなければならない.この相互信頼のうえになり立つ重要な業務に関し,検査室としては絶対に裏切りがあってはならないことであり,ひいてはそれが,検査技師の信頼に連なる一つの過程であると筆者は考えている.このような見地から,細菌検査室として絶対守らねばならないルールと,検査材料の採取に当たり,当然励行したい最低の基準を記述する.

ウイルス,リケッチャ検査

著者: 富山哲雄

ページ範囲:P.839 - P.843

 ウイルス,リケッチャなどのなかには,容易に不活化されるものが少なくなく,分離培養が成功するか否かは,分離までの検体の取り扱いと保存法に大きく左右される.ここでは,ウイルス,リケッチャをはじめ,クラミディア,マイコプラスマ,ウレアプラスマをふくめて,検体の採取,保存法などの要点を述べてみたい.

読んでみませんか英文雑誌

病院内インフルエンザA(H1N1)の感染症

著者: 猪狩淳 ,  

ページ範囲:P.844 - P.846

 小児においてインフルエンザやそのほかの呼吸器系ウイルスの院内拡散に関する報告は多くあるが,成人の入院患者の報告は少ない.インフルエンザA(H3N2)とパラインフルエンザ3の病院内発生が,消耗状態の成人患者に起こったという二つの例外的な報告があった。この報告は一人の成人例に発生したインフルエンザの病院内感染例に関するものである。この感染は同じ病院で看護学生の間で発生したインフルエンザと関連があると推定された.

おかしな検査データ

ABO式血液型判定にさいして見られたおかしなデータ

著者: 伊藤忠一 ,   並木恒夫

ページ範囲:P.847 - P.848

 症例1 7歳,女子
 熱傷(II度)で体表面積の60%に水泡を形成して来院した症例である.発症後来院までの2日間,ラクテックス500ml×4,プラズマネート500ml×3,ソリタT1号500ml,5%グルコース500ml×2と大量の輸液を受けている.家族の供述によれば患児の血液型はB型とのことであったが,輸血に際し念のため血液型の検査をしたところ下記のごとき結果を得た.
 すなわちおもて検査ではB型と判定できたのに対してうら検査ではAB型を示し両者間に不一致をみたのである.念のためB型血液5本とAB型血液5本とについて食塩水法で交差適合試験を実施したところ次のような結果が得られた.

マスターしよう基本操作

凍結切片作製法

著者: 福元茂 ,   都築正雄 ,   浦野順文

ページ範囲:P.849 - P.856

 凍結切片の作成は病理検査室の日常業務の中では欠かすことのできない作業である.手術中に行う迅速診断に,またパラフィン標本作用の過程で使われる有機溶媒に溶出あるいは破壊されるものを同定,検索するために凍結切片作成は必要である.
 凍結切片の作成の原理は,凍結によって試料に一定の硬度を与えて,薄切することにある.これにはザルトリウス型凍結ミクロトームおよびクリオスタットを用いる方法の二つに大別される.

私の学校

日本医学技術専門学校—体験と自主性を生かす校風

著者: 新井幸江

ページ範囲:P.859 - P.859

 我が日本医学技術専門学校は,新宿から中央線で25分,まだ武蔵野の面影が幾分なりとも残っている武蔵境駅から歩いて2分のところにあります.
 本校は日本医科大学が経営する夜間のみの専門学校で,同じ敷地には日本獣医畜産大学が併設されています.

東西南北

医療,検査と人間性

著者: 岡宏子

ページ範囲:P.860 - P.860

 医学の近代化は,医療行為全般に機械化を推し進め,それが人間性を減少させることにつながっていると言われる.コナン・ドイル描くところの名探偵シャーロック・ホームズのモデルは,ドイルの医学生時代の解剖学の恩師が,患者を前にすると,その顔色,目付き,膚の色艶やたるみ,歩き方などから,サッと診断の手掛かりとなる諸情報を読みとり,一瞬にしてその病名を察知したと言うその洞察力がそのままに,同じものを見ても見えぬワトソン博士には,神のごときものとも映ずるホームズの能力として表現されたのだという.
 現代では,診断にこのようなホームズばりの洞察を発揮することが少なくなってきているといわれる.もちろん,人である患者にこれも人である医師が接して診察が行われることには変わりないが,その対人場面で,患者の語らずして語る情報を出来るだけ多くキャッチしようと,とぎすませた五感の網をはりめぐらすかわりに,機械による測定,採尿採血,更に必要に応じ次々に諸検査が指示される.これら検査の結果報告される数値や図形をぐいと睨みながら,おもむろにその意味するところを考えることによって,医師はより的確な診断が下せるようになってきているからであろう.そこで,患者がどんな訴えをもって医師の前に現われようと"まずは一通りの検査を"となり,次々に運ばれてくる検体の山を前に,検査技師は終日おおわらわという次第なのであろう.

最近の検査技術

りん病の血清試験

著者: 亀井喜世子

ページ範囲:P.861 - P.864

 りん病は全世界に分布する,主に性交により伝達されたりん菌(Neisseria gonorrhoeae)の感染によって起きる泌尿生殖器系の病気で,公衆衛生学的あるいは疫物見地から大きな社会問題となっているものの一つである.我が国にはその流行の実態を明らかにした報告はあまりないが,我々が数年前行った調査では街娼で15.5%(東京都,昭和48年)1),トルコ風呂従業員1.7%(川口市,昭和51年)(未発表)という成績があり,アメリカでは約1.5%2)が感染しているという報告がある.
 過去においては男性の急性りんならともかく,女性の不顕性感染,慢性感染に関する検査は専門医にとってすら,頼りないものであった.その後,選択培地などの改良が進み,検査結果の信頼性も高くなってきた.しかし患者材料から,菌を分離,同定し,最終診断を下すまで,数日あるいは週を越える日数が必要であり,患者の多くは開業医などの,性病専門医以外の医者によって治療され,なんら検査を受けることなしに,"疑わしきは罰する"という方針で処置されてきた.そこで必要とされるのが,より簡単で迅速,更に欲を言えば敏感で特異性の高い,どこでも行える検査方法ということになる.

知っておきたい検査機器

肺機能検査用連続ガス分析装置(I)—ガス(CO,He,N2,O2,CO2)メーター

著者: 西田修実 ,   ,   小早川隆

ページ範囲:P.865 - P.870

 肺機能の精査にさいして,O2,CO2,N2,He(あるいはNe,Ar,SF6),CO,N2O(あるいはC2H2)などのガス分析装置は不可欠であり,いろいろのガス分析装置が用いられている.本稿では,これらの装置のうち,一般に広く用いられている赤外線ガス分析装置(COメーター,CO2メーター),熱伝導率を利用するガス分析装置(カサロメーター,カタフェロメーター)および放電現象を利用するガス分析装置(N2メーター,エクスパイアードガスアナライザー)の測定原理,臨床応用,測定上の問題点などについて,簡単に解説する.

トピックス

梅毒の脊髄液検査

著者: 菅原孝雄

ページ範囲:P.870 - P.870

 梅毒の発生率が減少し,久しく顕症梅毒が珍しい存在となっていた.しかしここ数年来,顕症梅毒は再び増加の傾向にあると言われ,これに伴って極端に減少していた神経梅毒も増加するのではないかと懸念されている.
 神経梅毒の正確な診断のためには,脳脊髄液(CSF)を検査する以外に方法がない.CSFの梅毒検査法は,我が国では梅毒凝集法が最も適切であるとされてきたが,最近では本法を使用する検査室が少なくなり,ガラス板法が用いられている,一方,欧米ではVDRLテストが推奨され用いられてきた.これらの方法はいずれも梅毒の抗脂質抗体を検出する方法である.

コーヒーブレイク

医療の近代化

著者:

ページ範囲:P.838 - P.838

 厚生省の死亡統計をひもとくと,肺炎,気管支炎,結核,胃腸炎などの感染性疾患は今世紀の初めから昭和20年代までは,大きな死亡原因であった.東京大学の剖検例をみても昭和20年代までは肺結核はいうまでもなく粟粒結核,喉頭結核,腸結核などが数多くみられる,昭和30年代になると悪性新生物や脳血管疾患が死亡統計によれば大きな死亡原因となり,剖検でも悪性新生物が主座を占めてきて,新しい大きな死因として登場してくる.明治になって西洋医学が導入されて以来の疾患分布が,昭和30年代から現在にみる悪性新生物や成人病ないし老人病疾患主体型のそれに変貌してきた.昭和20年はその移行期と言える.これにはペニシリン(1943年),ストレプトマイシン(1944年)などに始まる抗菌物質の発見と普及が大きな原因であろう.
 このような時代になってくると,細菌検査が実地医療の中で大きな役割を占めていた時代は去って,中央診療システムが必要となり医療近代化が迫られる.つまり総合的な検査室,手術室,X線診断室,滅菌消毒室,医学写真室,リハビリテーションなどの病院全体の共同利用施設として必要になった.新しい検査機器,それを扱う技術なども高度になり,各科がもつ小さな検査室では設備や技術の点でもとても追いつかなくなったことも原因として挙げられる,このように機運が熟し,多くの先駆者の苦心もあって,昭和30年代になると続々と中央検査室が作られるようになった.現在はこの医療の近代化は広く一般の人にも理解されるようになり,このようなパラメジカルの業務に従事するための人たちも数多くなり,その歴史も4分の1世紀になる.

剖検今昔

著者:

ページ範囲:P.871 - P.871

 明治の新政府は幕府の医学所(もとの西洋医学所)を明治2年(1869年)に医学校兼病院と改称して近代医学と取り組む第1歩を踏み出した.この明治2年にここで刑死の腑別でなく病死の解剖が行われている.この医学校は度々改称し,明治十年には東京大学医学部となった.この頃より病死の解剖も増加し,明治16年からは東大病理学教室の剖検記録が残っている.この年には37体の剖検がなされている.海外からの留学生が続々と帰国し.付属病院も整備されてきた今世紀初頭からは現在と同様の病理診断が下されていたことが剖検記録に見られる.剖検記録および診断はその精度が徐々に高くなり,昭和に入ってからは肉眼的に観察し,それを顕微鏡で調べるということは一つの頂点に達したと思われる.明治時代には剖検し,この組織標本を顕鏡することが即研究であり,顕微鏡は最新の機器であったに違いない.ところが現在もこの方法で剖検が行われているところを見ると既に半世紀も歩みを止めているように思える.現代では剖検業務は研究から遠ざかった臨床家へのサービスということが何となく臨床医および病理医の両者に定着してしまっている.原発不明癌の原発巣を探すとか,不幸の転帰の因となった大出血の出血源を探すとか,汎発性血管内凝固症候群やカリニイ肺炎の有無など肉眼的あるいは光顕水準で観察できることだけしか病理医に要求しないといったことが現実になってきている.剖検が保険点数に算入されていないので,結局は赤字運営にならざるを得ない.したがって新しい機器を買うこともできないので,高度の形態学的な検索を行うことが,定員・予算の制約でできないといったことが一つの大きな原因である.収益にならない病理解剖を高い水準で行ってこそ,治療の適,不適などを反省することができ,ひいてはそれが新しい診療の糧となる.生化学や血液検査室が新しい機器の中で活発な活動をしているのをみると,病理の検査室は自動染色機や自動包埋器があるぐらいで,旧態依然たる所が多い.病理の検査技師の人人も学校で新しいことを学んできても腕のふるいようがない。正しい医療は赤字運営になるという認識はたとえあっても,病院の運営には独立採算制が要求されているのが現実である.手術・生検症例の検索だけでなく,剖検も保険点数に算入せられるようにならないと,現状では病理検査室の近代化は困難のようである.

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医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.857 - P.858

 1301)レイエ症候群;Reye's syndrome
 健康な12歳以下の小児に上気道感染と,引き続き持続性の嘔吐が出現,意識障害,昏睡となる.肝は腫大するが,黄疽など肝不全症状はないか軽微.原因は不明であるが,肝は腫大し肝細胞にび漫性脂肪空胞がみられ,一部に肝細胞壊死もある.脳症を伴う脂肪肝である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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