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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術8巻11号

1980年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

薬物性肝障害

著者: 門奈丈之

ページ範囲:P.880 - P.887

 薬物に起因する肝障害は,四塩化炭素,エチオニンなどによる狭義の中毒性肝障害と,薬物を投与された個体の特異体質による,薬物アレルギーに起因する肝障害,の二つに大別される.
 前者では投与された薬物量の増加に比例して肝障害が強くなり,薬物の種類に対応してほぼ一定の肝組織変化を示す.しかも,投与された対象はほとんど同様の病変を示す.

技術講座 生化学

FeとUIBC及びCuの定量法

著者: 浅井正樹

ページ範囲:P.901 - P.907

 生体内で鉄,銅はグロブリンと結合して血管内を流れている.
 トランスフェリン(Tf)は分子量約9万の鉄結合蛋白であり,Tf1分子について鉄が2原子結合する.血清中Tfの1/3は鉄と結合している.残り2/3は遊離Tfとして存在する.前者を血清鉄(SI;serum iron)と言い,後者は試験管内で鉄を添加すると鉄を結合する能力を持つことから不飽和鉄結合能(UIBC;unsaturated iron binding capacity)と言う.SIとUIBCを合わせて総鉄結合能(TIBC;total iron binding capacity)と言う.またTfと鉄の結合は可逆的でpH依存性であり,pH7以上では結合は完全となり,pH5以下ではほとんど解離する.

血液

線溶試験

著者: 相賀静子

ページ範囲:P.908 - P.911

 線維素溶解現象とはフィブリン及びフィブリノゲンが水解酵素であるプラスミンによって分解されて起こる現象を言う.
 通常プラスミンは血液中には不活性な前段階のプラスミノゲンという物質で存在している.また血液中にはプラスミンの増加を防ぐ抗プラスミンが存在し,両者のバランスが保たれている.しかし,炎症やショック,悪性腫瘍など,病的にこのバランスが破れてプラスミンの活性が増えると,線維素溶解亢進になって出血傾向が現われてくる(図1).

血清

マイコプラズマ感染症の血清学的診断法

著者: 田島マサ子

ページ範囲:P.912 - P.920

 Mycoplasma pneumoniae感染症の血清学的診断法には,通常用いられている方法として補体結合反応(complement fixation test, CF),間接赤血球凝集試験(indirect hemagglutination test, IHA)1),代謝阻止試験(metabolism inhibition test, MI)があり,さらに迅速診断法として1時間で測定できる対向免疫電気泳動法(counter immunoelectrophoresis, CIEP)2)がある.
 今回は一般的なCF反応,IHA test,並びに抗原が入手できさえすれば迅速診断として有用なCIEP法について紹介する.

生理

終夜睡眠の生理学的測定法—手技と整理について

著者: 西原京子 ,   斎藤泰彦 ,   遠藤四郎

ページ範囲:P.921 - P.928

 睡眠研究を飛躍的に発展させたのは,1953年Aserinsky & KleitmanによるREM(Rapid EyeMovement)睡眠の発見であった.これは,脳波以外に睡眠中の眼球運動などの生理現象を同時,連続的に記録する方法(睡眠ポリグラフィ)によるものであった.以来,睡眠障害や睡眠中の種々の現象(夜尿,夜驚,無呼吸発作など)を調べるには,すべて睡眠ポリグラフィが施行されている.これは従来の臨床脳波検査法で行われていた睡眠賦活より得られる情報のうえに,さらに一晩にわたる記録により,睡眠の質的及び量的変化(すなわちNREM睡眠,REM睡眠の変化)についての詳細な情報が得られる.しかし長時間による記録のため,アーチファクト除去が重要な課題となる.ここでは当研究室が長年,開発改良を加えてきた睡眠ポリグラムのとり方を紹介するとともに,そのデータ処理の方法を略述する.
 最近,睡眠ポリグラフィは,終夜だけでなく24時間以上の記録,検査室内だけでなく患者の日常生活下で記録する必要がでてきた.当研究室では,この方面での技術研究も行ってきたので併わせて紹介する.

検査法の基礎理論 なぜこうなるの?

比色法の理論

著者: 松村義寛

ページ範囲:P.888 - P.892

 呈色の強さが着色物質の濃度の関数であることを利用した比色定量法の初期には,標準比色管の系列と被検液の色とを並べて比較する方法が行われたが,標準比色液の液層の厚さを任意に変化させることにより所望の色の濃さを作り,被検液の呈色とを一視野中に相接して比較できるようにした装置(ジュボスクの比色計)が考案せられた.いずれにしても色調の比較は肉眼により行われるもので,主観により結果が左右せられるので,誤差が大きいうえに,測定に長時間を要するものであった.
 分光光電光度計の開発により比色分析法は,簡易迅速で施行せられるうえにはなはだ精確であるため,広く採用せられ,特に試料の微量化に有力であったために,臨床化学分析においても主流を占めるに至った.

mg/dl, mEq/l, mmol/lの使い分けからSI単位への統一

著者: 石井暢

ページ範囲:P.893 - P.900

 表題のいずれも,我々臨床検査に携わっている者にとり,平生使い慣れた表現である.すなわち血清総コレステロール230mg/dl,血清カリウム4.3mEq/lとしたり,ある物質5mmol/lの溶液を作るとかである.しかし,改めて見直すと,同じ血清成分でありながら一方はmg/dl,他方はmEq/lとはなぜであろうか.最近の新しい臨床化学雑誌をみると,今度は血糖5.5mmol/lなどとの報告がある.全く不統一そのものと思われよう.

知っておきたい検査機器

肺機能検査用連続ガス分析装置(II)—医用質量分析計

著者: 西田修実 ,   ,   有田健一 ,   平本雄彦 ,   倉岡敏彦 ,   宮沢輝臣

ページ範囲:P.929 - P.934

 本稿では,医用質量分析計(図1)の測定原理,臨床応用,測定上の問題点などについて,簡単に解説する.

マスターしよう基本操作

検査室廃棄物の処理法

著者: 富田仁 ,   宮野已代次 ,   高木和則

ページ範囲:P.935 - P.942

 検査室の廃棄物処理法といっても,検査室だけでは処理できないものが多い.病院全体ないし大学全体として,ときには産業廃棄物処理業者を含めて,処理するのに便利なようにしておくことが大切である.京都大学は古くて大きく,排水経路なども統一化して処理施設を設けることは難しいので,大学外には有害物質を出さないということと,研究者自らが処理するという基本姿勢のもとに,有機溶媒,重金属などを貯留し,京都大学有機廃液処理施設や重金属廃液処理施設などの除害施設を設置し,使用者自らが処理するという姿勢をとっている.
 300床以上の病院も特定施設になった今日,特に病院のなかでは大量の有害物質を使用している検査室は,率先して廃棄物処理の問題に取り組まねばならない.各大学,各病院それぞれ適した方法がとられているが,以下提示する京部大学の例も一例と受けとめていただきたい.

私の学校

東洋公衆衛生学院—優れた講師陣と恵まれた条件の中で

著者: 一瀬京子 ,   照屋宏

ページ範囲:P.945 - P.945

 我が校は,創立15年,新宿副都心近辺の甲州街道沿いの交通の便の良い所にあります.
 夜間部だけで始まった当学院も,今ではI部(昼間部)とII部(夜間部)の臨床検査技師養成科からなり,今年から新たに診療放射線技師養成科が設置され,幅広い医療技術者の養成校となりました.また,当学院の周囲には,検査センターの東洋微生物研究所や東洋第一病院などの付属機関があります.

東西南北

臨床検査領域での固定化酵素の応用—プレポリマー法による固定化法

著者: 福井三郎

ページ範囲:P.946 - P.946

 酵素の持つ厳しい基質選択性と鋭敏な反応性は共存物質中の特定の微量成分を定量するために極めて優れたものであり,酵素を用いる分析法の有用性が広く認識されるようになっている.しかしながら,1回の測定ごとに使い棄てにするには高価であり,また不安定で取り扱いにくいことが酵素法の難点である.
 酵素の固定化は酵素の保存性ならびに使用時の安定性を改善し,熱や変性剤などに対する抵抗性を増大させるとともに,繰り返し使用,測定の連続化,自動化を可能にする.このような長所を持つ固定化酵素,さらに固定化微生物菌体,オルガネラ,動植物細胞を用いる分析法の医療診断,生化学工業プロセスの管理,廃液の監視などへの応用が急速に発展してきた.固定化法の開発により酵素は,目的に適した形態をとって定められた場所で触媒としての機能を果たすことができるようになったのであり,"試薬としての酵素"から"反応器としての酵素"へと酵素の応用面で画期的な変換が起こりつつあるわけである.

おかしな検査データ

血清尿酸値"0"

著者: 三浦吉範 ,   小田代律子 ,   伊藤忠一

ページ範囲:P.947 - P.948

 我々の検査部では716型自動分析装置(日立)を用いuricase-peroxidase法で尿酸(UA)を測定し始めてから2年になるが,その間ときどき経験されたUA値"0"という"おかしな検査データ"について紹介したい.
 最近の4症例のUAを含んだ検査データは表1のごとくである.症例1では尿素N,クレアチニン(CRNN)ともに異常高値であるにもかかわらずUAは"0"である.症例2〜4は尿素N,CRNNは正常範囲内ではあるが,UAの我々の施設での正常値は2〜6mg/dlであり,いずれにしても極めておかしなデータと言わざるを得ない.また症例1の総コレステロール(T-Ch),リン脂質(PL)もβ-リポ蛋白や中性脂肪の値と比較し予想外に低い,症例3及び4のT-Chも不当に低いように思える.

読んでみませんか英文雑誌

外科手術例の異常偽性コリンエステラーゼ値

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.949 - P.951

 1949年に短時間作用する筋弛緩剤としてサクシニルコリンが紹介されて以来,この薬剤の使用後の遷延した無呼吸,明らかにかなりの外科的リスク(危険)を呈した例の報告がなされてきた.さらに呼吸不全,心血管虚脱や死を含む合併症も報告されている.サクシニルコリンに対する感受性の増大と血清コリンエステラーゼあるいは偽性コリンエステラーゼ量との間の関係は1950年代に確立され,この酵素の異型についても記載された.
 偽性コリンエステラーゼ(acylcholine acyl-hydrolase, E.C. 3.1.1,8)はコリンエステルの水解を触媒する.この酵素の生理機能は不明のままであるが,神経・筋遮断物質であるサクチニルコリンの急速な破壊に関与する.
 偽性コリンエステラーゼ活性はある人口集団内でも幅広く変動する.正常値以下の値は肝疾患,悪性腫瘍,貧血,低栄養状態,妊娠,有機リン殺虫剤への暴露などを含む二次的障害により,あるいはこの酵素の異型の遺伝によりみられる,異常に低値を示した場合はサクシニルコリンのゆっくりした,あるいは不十分な水解による以外は明らかな生理的所見ではない.

最近の検査技術

RIAの精度管理

著者: 柳下正樹

ページ範囲:P.952 - P.959

 ラジオイミュノアッセイ(radioimmunoassay以下RIA)を含めて臨床化学検査は,血液,尿などの検体に含まれる成分の測定を行い,臨床の診断,治療に必要な情報の提供を行うものである.この測定結果は測定方法,測定機器,測定者,検体そのものの性質など種々の条件に影響される.したがって,臨床検査が実際に有用であるためには,それが正しくかつ精度の高いものである必要がある.そのためには臨床検査の諸条件を標準化し,変動の因子を可及的明確にし,それらを客観的に評価する必要がある.精度管理はこのような目的で,検体の取り扱い方法,測定方法,測定データの処理法などを標準化し,その最終結果である測定値の統計学的な精度検定を行い,測定精度を常に一定の基準を満足する状態に保つものである.このような精度管理を行うことにより,測定値の信頼性を客観的に評価し,より精度,効率の高い検査法の確立を目ざすことが可能になる.精度管理の重要性は十分に認識されており,特に臨床化学検査の分野では広く一般化されている.RIAにおいても精度管理に関する基本的な考え方,統計学的精度検査法など他の臨床化学検査と全く同一である.しかしRIAにおいては一般の臨床化学検査とは異なるいくつかの重要な問題点があり,これらがRIAを理解し,精度管理を行ううえで大きな意味を持っている.本論ではこれらの問題点について以下のような点を中心に述べることにする.
 (1)RIAが定量検査としての意味を持つためにはどのような条件を満足させる必要があるか,特に第一抗体の特異性,標準物質によって得られる検量山線と検体によって得られる検盲ヒ曲線の平行性に関して:これはRIA検査を行う際常に明らかにされていなければならない点であるが,我が国のRIA検査の大部分が市販されているRIAキットを使って行われており,これらの問題点に関して必ずしも客観的な情報が得られない実情である,市販RIAキットが常にこれらの条件を満足していると盲信するのは危険であり,認識を新たにする必要がある.

トピックス

阻害剤によるアミラーゼの分別定量

著者: 中山年正

ページ範囲:P.934 - P.934

 ヒトの膵及び唾液アミラーゼは極めてよく似た性質の蛋白質であり,わずかな等電点の差が両アイソザイムの分別に利用されている.等電点の差は極めてわずか(膵:pI=7.02,唾液:pI=6.87)であるため,電気泳動法では2〜3時間の泳動が必要である.
 阻害剤,基質親和性などの酵素学的分別法も種々試みられ,両アイソザイムに若干の差があることが知られており,特に両酵素の基質切断点の差が示唆されるようになった(オリゴ糖G4〜G5でその差が明瞭である).

コーヒーブレイク

嫌われた"伝染性"単核症

著者:

ページ範囲:P.887 - P.887

 去る7月,医療技術短期大学部看護科3回生の学生が,発熱と頸部リンパ腺の腫脹をきたし,栓血の結果は,白血球数3,600,異型リンパ球28%,リンパ球20%,単球4%で,Paul-Bunnel反応は64倍で未だ上昇していなかったが,infectionsmononucleosisと診断した.下宿で治療をしていたが,発熱も上下し,食欲がなくなったので,某病院に緊急入院方を依頼した.電話口に出て来たナースは,こちらの言うことを十分聞こうとはしないで,断わりの一手の傲慢な態度であった.その手助けに出て来た医師に,どんな病気かと聞くので,伝染性単核症であろうと答えると,即座に,伝染する病気は入院させないといとも簡単に断ってきた.こんな医師と,infectionsmononucleosisとは,どんな病気であるか議論する気にもならなかったので,infections mononucleosisを入院させない病院の方針であればよろしいと断った,そこで,この病気について理解のある医師にたのんで入院させてもらった.ところが,ここでもナースより伝染しないかとの質問があった由である.
 ある雑誌に,伝染性単核(細胞)症というのは名前が悪いから,感染性単核(細胞)症にしようとの提案があった.そのときは余り気にしていなかったが,今にして思えば伝染性はよくないと思う.むしろ昔から言われている腺熱(Drusenfieber,glandural fever)のほうがよく,更に,このような病状を呈するのは,E. B. ウイルスだけでなく,サイトメガロウイルス,アデノウイルス,風疹ウイルス,単純ヘルペスウイルス,マイコプラズマ,リステリア菌,トキソプラズマ,薬剤(パス,サルファ剤,ジランチンなど)などがあるので,腺熱症候群とかMonolykesyndromeと言ったほうがよいかも知れない。

核融合研究センター見学

著者:

ページ範囲:P.959 - P.959

 昭和55年6月14日宇治市にある京大ヘリオトロン核融合研究センターに,実験装置"ヘリオトロンE"が完成し,その竣工式があり招かれて行った.
 21世紀のエネルギー源として,核融合が有望であり,海水中に含まれている重水素,三重水素を用い,ヘリウム原子核を作るなどの核融合反応(この際,ばくだいなエネルギーが出る)は,太陽エネルギーの源となっているものである.つまり,太陽で起きている現象を地上で再現しようとするものである.この現象を引き起こすのには,約1億度の超高温プラズマ(原子核と電子がバラバラに飛びまわる状態)を,1〜2秒間,1立方センチ当たり1千兆個封じ込める技術が必要である.この実験のため"ヘリオトロンE"装置が作られたのである.昭和51年から総額91億円の建設費がかけられたというから,その偉大さは想像できる。本装置では,1千万度の超高温が出せると言われ,核融合炉の一歩手前まできたと言える。

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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