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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術8巻4号

1980年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

多血症

著者: 大橋辰哉

ページ範囲:P.278 - P.282

 多血症(polycythemia)とは赤血球数が正常値以上に増加している状態を言い,赤血球増多症(erythrocytosis)とも言う.日本人では男子600万,女子550万以上で,ヘマトクリット(Ht)値50%以上を言う(小宮ら).男子600万以上,女子530万以上,Htでは男子52%以上,女子46%以上としている人もある(日比野ら).
 しかし,頻回の嘔吐や下痢,著明な発汗などによって脱水状態になると血漿成分が少なくなり,したがって相対的にHt値が高くなる(すなわち赤血球数も多くなる).これは真の赤血球増多症ではなく,見掛け上の赤血球増多症と言うべきものである.

技術講座 生化学

アルカリ性ホスファターゼの定量法

著者: 森下芳孝 ,   中根清司

ページ範囲:P.297 - P.303

 アルカリ性ホスファターゼ(EC3.1.3.1,以下ALPと略す)は,アルカリ性側に至適pHを持つホスファターゼの総称であり,種々のリン酸モノエステルを加水分解し,リン酸を遊離する酵素である.また,同一の酵素反応を行い,至適pHを酸性側に持つものを酸性ホスファターゼ(EC3.1.3.2)と呼び区別している.
 ALPの構造は活性中心にセリンを有する2個のサブユニットから成り,分子中にZn2+を含む金属酵素(metal enzyme)で,Mg2+により賦活化される,分子量は12〜15万である.

血液

血球形態の見方 II

著者: 相賀静子

ページ範囲:P.304 - P.308

 前回,赤血球系の形態について記したが,今回は白血球系と血小板について述べる.血液の白血球系には好中球,好酸球,好塩基球,単球,リンパ球,形質球がそれぞれ,特徴的な形態をしているので,覚えてしまえば簡単である.現在ではその特徴を電算機に覚え込ませた自動血球分類器が使われている.しかし幼若系の細胞は核構造など複雑なのでまだ算定できるまでにはいっていない.
 血球の形態の見方は,主観的な見方を教えてもらったりしていると,ほかの名称で書かれた本を読んでも理解するのに苦労する.前回の赤血球形態でも似たような名称を使ったが,時には主観的な名称のほうが理解しやすい場合があり,形態学の難しさ,不合理さがあるのかもしれない.最近では白血病細胞の分類方法をM1〜M6,L1〜L3というような分類方法に向かって実施されつつあるが,根本は細胞の形,核の形,原形質の色彩,顆粒の有無,大きさ,色調,核小体の有無,数などを細胞から理解して幼若系の細胞へと学んでいったら良いと思う.また基本的なことは,一定条件の,良い標本を作製し,ライト(ライト・ギムザ)染色標本になじむことである,もう一つ大切なことは,百分率を算定したら,細胞の百分比を検討し,もう一度標本を流し読みをしてみることである.時には幼若な細胞を発見することがあるだろうし,うっかり見逃してしまった赤血球形態,血小板の概数や,凝集の度合なども検討することができるからである.

血清

血清補体成分の蛋白量測定

著者: 近藤元治 ,   加藤治樹 ,   田上広樹 ,   山口恭平

ページ範囲:P.309 - P.313

補体の測定には,次のような方法がある.
1)機能的検査法
 a)溶血活性
  (i)CH50(補体全体としての活性)
  (ii)個々の成分の溶血活性

検査法の基礎理論 なぜこうなるの?

確率紙による分布型の決定と正常値の求め方

著者: 臼井敏明

ページ範囲:P.283 - P.288

 確率紙の用法は初級統計書に記載されているが,記述が簡単なために,実際の適用に際して誤って使用されることが多い.今回は確率紙上での分布型の分類と処理判断を加えて,実用的な使用法をまとめてみることにする.
 本法では正規分布,対数正規分布だけでなく,各種の変数変換の見付け方や,異常値を含むためにグラフに歪が生ずる場合などのように,実際によくみられるような変形分布の処理について述べる.

ST上昇及び下降

著者: 野原義次

ページ範囲:P.289 - P.296

 STの上昇あるいは下降は日常臨床の心電図でよく見掛ける所見であり,ST上昇は心筋梗塞を,下降は冠不全を,連想するほど身近な所見である.が同時に,ST変化の理論は分かりにくいものの一つである.今日,心電図の理論的解釈には,臨床的には一般にBernsteinの膜説よりLewis1)をへて,Wilson2)へと発展した二重層説が受け入れられているが,生理学的にはNa,K,Caなどのイオン流説が主流をなしている.この理論によりQRSの成立機序についてはかなり素直に理解されるが,ST,T変化の成立機序については,なお理論的にすっきりしない点が残されているようである.
 本稿においては,ST上昇及びST下降について,まず臨床的及び実験的事実を述べ,次いでその基礎理論-なぜこうなるの?を解説的に述べようと思う.

最近の検査技術

Opportunistic fungus infection

著者: 赤木正志

ページ範囲:P.314 - P.319

 Opportunistic infectionは日和見感染と訳され,その訳語は定着しつつあるようであるが,要するに"雑菌あるいはさほど病原性の強くない微生物によって引き起こされる感染"のことである.したがってそこでは菌自体の病原性よりも宿主側の条件が感染・発症に重要な意義を持つことになる.戦後抗生物質が登場して感染症における真菌の役割が見直され,菌交代現象(colonization),菌交代症(super- or suprainfection)という概念が現れた.これらは抗生剤の使用によって優位を占めるようになった菌の出現,あるいはその優位菌による感染を意味するものであるが,opportunisticinfectionではこのような2種以上の菌の競合を考慮することなく宿主の抵抗減弱に起因する感染症を意味するものである.そこには,抗生物質に加えて,ホルモンや免疫抑制剤などの新しい治療薬が登場してかえって宿主の抵抗減弱を招き弱病原性菌の感染を助長したという今日的背景がある.また治療法の進歩によって延命する抵抗減弱者の増加も弱病原性菌の感染の予備軍を作る結果となった一面も強調されている.
 真菌は本来病原性のさほど強くない微生物であって自然界に広く分布しており,その種を維持していくためにはほとんど人体への寄生・感染を必要としないのが通例であるので本質的な偏性寄生性を持つ病原真菌は多くない.したがってそのような菌による感染が成立するためには宿主の抵抗減弱という条件が必要となるので,真菌を主役としたopportunistic fungus infectionがその最初のテーマとして取り上げられることになったのである1〜3)

マスターしよう基礎操作

電極法による分析器 I—ベックマングルコースアナライザー2 富士グルコースメーター(グルコ・20)

著者: 高原喜八郎

ページ範囲:P.321 - P.328

 体液成分を定量する方法は文字どおり日進月歩の道を歩んでおり,特に臨床検査の分野では同一方法が数年以上にわたって標準法の地位を占めていることは一般に珍しい.血糖を例にとってみれば理解されるように,手技的には滴定法→比色法及び電極法へと変遷してきたが,原理的には還元法→縮合法→酵素法(液体酵素及び固定化酵素)といった歴史を歩んできた.これらに加えて検体の出され方のモードにも,特殊研究検査,日常検査,緊急検査の三者が区別されており,この三者に上記の原理別方法がいろいろと組み合わさって各種の自動分析機やアナライザーが誕生し市販されている.特に緊急検査項目としてのナトリウム(Na),カリウム(K)などの電解質,血糖,尿素窒素などは採血後数分以内に成績を知る必要性が強いために,電極をセンサーとする独特なアナライザーが開発され急速に普及しつつある.ここではそれらのうちから血糖とNa,Kの測定専用機の代表的な機種を例にとって,センサーである電極の理解を目的として取り扱い操作ならびにメンテナンスなどについて今回と次号の2回にわたって解説する.

私の学校

京浜学園臨床検査技術学科—働きながら学ぶメリットの大きさ

著者: 川村真理子

ページ範囲:P.331 - P.331

 京浜学園は1965年衛生技術学科として発足し,1972年4月に臨床検査技術学科となって1980年の4月で8期生を迎えました.
 場所は国鉄南武線の武蔵新城駅から徒歩で2分.商店街の中にありますので住宅の宣伝ではありませんが"買物に便利"です.通学途中に買った葱の匂いが教室に漂うことも,カボチャが授業中に転げるといったような出来事もありました.

東西南北

80年代の技術展望

著者: 石井威望

ページ範囲:P.332 - P.332

 80年代について,バラ色の未来を語る人は少ない.中東情勢一つをとってみても,年初以来その動きは誠に不気味である.それに引きかえ,70年代は大阪の万国博とともに華麗な幕明けであったことが想い出される.筆者らのいわゆる昭和一ケタの技術屋は,万博会場に未来の科学技術の夢を思う存分に描いたものである.例えば,コンピューターをふんだんに駆使したコンピュートピアのショーなどといった具合であった.確かに,ある意味では技術屋冥利につきるという感じがしないでもなかった.それは石油ショック前の資源過剰気味の時代であり,人類がついに月面着陸に成功したというアポロ計画の興奮いまだ醒めやらぬ時代でもあった.
 しかし,それからの10年間で事情は完全に一変した.経済大国ではあっても資源小国にしかすぎないことがかくも鮮明になった現在の日本は,80年代以降自らの生存をどうして支えていけばよいのであろうか.確かに当面自動車,鉄鋼,電気機械などは格段の国際競争力を持っている.しかし,それがいつまで続くかという不安とともに,既に欧米で起こっている日本製品の輸入規制論議の行方いかんによっては,いつ現実に最大級の危機が訪れるかもしれない.

知っておきたい検査機器

Du Pont aca

著者: 水野映二

ページ範囲:P.333 - P.337

 臨床化学自動分析装置には著しい発展と普及がみられる.今日,ほとんどの施設において,何らかの形で使用されているのが現状であろう.これらの使用目的はいろいろ考えられるが,主に多数検体多項目の分析及び少数検体多項目の分析などに用いられる場合が多いと思われる.今回.後者に属する装置で,最もユニークな設計であるDu Pont aca(automatic clinical analyzer)について説明する.

読んでみませんか英文雑誌

新しいテトラサイクリン系薬剤,セファロスポリン系薬剤及びその他の抗菌剤に対するレンサ球菌の感受性

著者: 猪狩淳 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.338 - P.341

 はじめに—レンサ球菌の抗生物質感受性に関しては多く知られているところであるが,まだなお解明されなければならない多くの問題がある.テトラサイクリン系薬剤に対するグラム陽性菌群の感受性には大きな相違がある.常用テトラサイクリン系薬剤に対する感受性を知るうえに単一ディスク法は役に立つであろうか?最近,二つの新しいセファロスポリン系薬剤が発売された.これらのレンサ球菌に対する抗菌活性は現在使用されているセファロスポリン剤に匹敵するものであろうか?世界各地でクロラムフェニコール,エリスロマイシン,クリンダマイシン耐性のレンサ球菌がみられてきている.この耐性は合衆国北東部で最近分離されたレンサ球菌にもみられるのであろうか.これらの疑問に答えるためにこの検討を行い,同時に余り調べられていない二,三の抗菌剤に対するレンサ球菌の感受性成績についても報告する.

おかしな検査データ

尿保存条件と混合不完全がアミラーゼ,尿酸測定値に与えた影響

著者: 二ノ宮京子 ,   大場操児

ページ範囲:P.342 - P.343

 尿中アミラーゼ,尿酸の測定は血清と同様に毎日行っているが,アミラーゼ活性値が再検時に40%以上の減少を示し,注意して行った再再検値は元の測定値にもどった.原因は尿の保存,混和操作の初歩的ミスと判明した.したがって保存,サンプリング前の前処理によっては,病人を健常者にしかねないので,あえて失敗例をご被露する.
 保存の影響を再現するため健康な男女技師17名の食後2時間(9:00〜11:00)尿を採取し,即日の測定値を求め,残尿を同径,同大の試験管に同量分注,密栓保存し,4〜10日まで1本ごとに測定し成分の変動を比較した.食後2時間尿の採取はアミラーゼ測定法が2時間尿の正常値を定めていることによる.

コーヒーブレイク

ことば

著者:

ページ範囲:P.282 - P.282

 1980年代は国際化の時代と言われる.ヨーロッパ共同体があるが,現実は世界共同体であることはだれもがよく知っている.この前の石油ショックの折には検査室の試薬などにも恐慌を来し,闇市に有機溶媒を買いに行くような事態に陥った.このような国際化の時代には共通な言葉が必要となる.これは悲しいかな日本語でなく英語が主流を占めている.
 外国の新聞や週刊紙を読むといったことも,これらの情報を紹介するジャーナリストだけでなく,若人の間には普及してきているし,容易に手に入るようになっている.商社の外国の進出とも相まって,外国で学童期を過ごす子弟の数も増え,帰国者子女教育学級が一部の国立大学の付属小学校には設置されている.この学級の子女などはrとlを聞き分けたり,発音することもうまいに違いない.

フランスの病理検索室

著者:

ページ範囲:P.303 - P.303

 病院の病理検査室は8時に始まる.まず8時に雑役のおばさんが来て,掃除をする.8時半には検査技師やタイピストたちが,出勤して来る.9時には医者が出勤してくる.
 医師たちの日常業務は原則として午前中なので,剖検,手術・生検材料の検索は午前に行われる.外来も病室も,手術もすべて午前中に行われる.午後は当直医(主としてレジデント)に任せられる.したがって検体の受け付けなども午前中に集中する.外科の手術などは2時ごろまでかかることもあるが,ほとんどが午後の1時にまでは終わる.

トピックス

第19回臨床化学シンポジウムと第11回日本臨床検査自動化研究会から

著者: 中山年正

ページ範囲:P.320 - P.320

 今回の両学会は同一会場で会期をずらしてつながるように開催するという画期的な試みがとられたためか,両学会とも参加者が非常に多いことが注目された.日本臨床化学会のシンポジウムが昨年9月26,27日,続く28,29日が自動化研究会で,場所は大阪商工会議所,会頭は前者が奥田清大阪市大教授,後者は林長蔵大阪大学助教授である.
 臨床化学シンポジウムは一般演題62題中の約半数以上が酵素に関するもので,酵素の性状,病態解明への意味,酵素的分析法などが主なものであった.ヒトγ-GTP,アミラーゼ,蛋白質脱リン酸化酵素などが精製され,その分子形,酵素学的性状,糖鎖の修飾などが解析され,また,オルニチンカルバミルトランスフェラーゼの欠乏症では,酵素活性と免疫学的測定法を等電点電気泳動分画法に組み合わせ,活性型と不活性型酵素の混在を証明し,これらは今後の蛋白質,酵素異常解明への有力な手法となることを印象付けていた.

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略語シリーズ

著者:

ページ範囲:P.313 - P.313

ARDS acute respiratory distress syndrome;急性呼吸窮迫症候群.ショック,外傷,手術後に起こる急性の呼吸不全を言い,主とし外科領域やICUで注目を集めている.病態や発症の原因については不明の点も多いが,病理学的には肺の間質浮腫,うっ血,細胞浸潤により肺胞の多くが閉塞状態に陥っている.検査ではPaO2の著しい減少,A-aDO2の拡大が特徴的で,PaCO2は末期を除けば低下する.
COLD chronic obstructive lung disease;慢性閉塞性肺疾患.肺気腫や気管支喘息がその代表で,換気障害によって発生するので,検査ではPaO2の下降とPaCO2の著しい上昇が特徴的である.

医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.329 - P.330

 1181)よう(癰);carbuncle
幾つかの毛穴を中心として,化膿の起こったもの.癰(せつ)が密生し,皮下組織に広がったもの.普通頸部,背部,腹壁に好発し,高年者,糖尿病患者によく見られる.一定期間化学療法を行い,効果のないときは切開する.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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