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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術8巻6号

1980年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

尿路結石症

著者: 武本征人 ,   園田孝夫

ページ範囲:P.446 - P.452

 尿路結石(以下尿石)は紀元前5,000年のエジプトの古墳にヒトの骨盤骨とともに発見されており,人類にとっては古く長い付き合いのある疾患である.我が国の最近の尿石症についての疫学調査では,本症の罹患率は人口10万人に対し53.2であり,100人のうち4人が一生の間に一度は罹患する1)と言うから,極めてポピュラーな疾患と言うことができる.尿石のほとんどは腎において尿成分より形成されるのであるが,これには多種多様の因子が絡んでおり,古くから数多くの発生機序解明に関する努力がなされてきたにもかかわらず,ほとんど解決されていないのが現況である.しかし尿石症の一例ずつを丹念に診察すれば,尿石発生に影響を与えると考えられる全身的因子(特に内分泌・代謝異常)や局所的因子を見いだしうる場合がある.かかる場合は治療方針,特に最も重要な再発予防の目安を立てることができる.本稿では,泌尿器科以外の一般外科医や内科医によって,ともすれば安易に扱われやすい尿石症(上部尿石症に重点をおいて)の特徴,診断及び治療についての概要を述べてみたい.

技術講座 生化学

クレアチン,クレアチニンの定量法

著者: 岡部紘明

ページ範囲:P.469 - P.476

 クレアチンはガニジン化合物の一つで,エネルギー運搬,筋肉代謝,腎機能などの研究で重要である.図1に示すように,アルギニンとグリシンでガニジン酢酸を合成し,このメチル化により肝でクレアチンが作られ,筋肉に運ばれエネルギー源となる.高エネルギーのリン酸はクレァチンキナーゼによってクレアチンリン酸に変換され,筋収縮時のエネルギー源として蓄積される.またクレアチンは自然にクレアチニンとなり,クレアチンリン酸も脱リン酸化されクレアチニンとなる.クレアチニンの排泄はかなり一定であるが,筋肉量や腎機能により変動する.クレアチニンは腎糸球体の濾過で尿細管で一定量までは再吸収されずに尿に排泄される.一般に血清クレアチニン濃度は腎機能が真に損傷を受けるまでは増加しない.重症腸管出血や尿路閉塞などによる血中尿素窒素の変動はクレアチニンの測定によって鑑別できる.また高蛋白食による影響も少ない.尿クレアチニン測定はクレアチニンクリアランステストの一部として行わなければ腎機能の判定には役立たないが,排泄は比較的一定しているので蓄尿が完全かどうかの判定に用いられる.尿中クレアチンは筋炎,ジストロフィー,重症筋無力症などで増加し,測定意義がある.クレアチンは原則としてクレアチンリン酸の構成成分であるから尿中に出ないが,小児及び成人女子の一部では生理的にクレアチン尿がある.

血液

血球算定(視算値)の誤差

著者: 相賀静子

ページ範囲:P.477 - P.481

 自動化が実施されている血液検査室では視算法は余り必要なことではないと考えるむきもあるが,この視算法が元になって自動化の機器類が生まれたのである.また視算法は骨髄の細胞数,髄液の細胞数,好酸球の算定や自動血球算定器で算定しにくい細胞数などは,視算法に慣れた者には手早く検体処理ができて便利なものである.しかし,この算定法にはいろいろな誤差を生じうる要因も存在する.それらについて述べたい.

細菌

嫌気性無芽胞グラム陽性菌の同定

著者: 渡辺邦友

ページ範囲:P.482 - P.487

 嫌気性無芽胞グラム陽性菌には,Propionibacterium,Arachnia,Bifidobacterium,Lactobacillus,Actinomyces,Eubacteriumなどの杆菌とPeptococcus,Peptostreptococcusなどの球菌がある.いずれもその同定は難しいが,ここでは球菌については触れず,杆菌について解説したい.
 嫌気性無芽胞グラム腸性杆菌は,歯肉溝,消化管,腟,皮膚の細菌叢の一部を構成している,また臨床材料からもしばしば分離される.Prévotは,この菌群を形態と生化学的性状を重視し,Eubacterium,Catenabacterium,Ramibacterium,Corynebacterium,Bifidobacterium,Actinobacterium,Cillobacteriumに分類したが,形態学的に非常によく似ているこれらの菌群を正しく同定することにはかなりの困難があったと思われる.しかしMoore,Holdemanらの研究により,今日では表1に示したごとく,代謝産物としての脂肪酸の違いによって整理・分類され,ガスクロマトグラフィー(Gas-liquid chromatography;GLC)という方法さえ用いれば,比較的簡単に,より客観的に属が同定されるようになっている1).言い換えれば,GLCによる代謝産物としての脂肪酸の分析を行わずして,これらの菌群の正確な属の決定はできないということにもなるのである.

生理

肺拡散能力の測定

著者: 鈴木政登

ページ範囲:P.488 - P.493

 肺の基本的機能はガス交換であり,大気中の酸素を摂取し,酸化の結果生じた二酸化炭素を排泄している.
 肺拡散能(diffusion capacity of the lungs;DL)は,元来肺胞膜のガス透過能(permeability)を表すものであるが,現在,臨床検査で測定されているDLは肺胞膜の透過性を含めた,肺のガス交換機能の総合的指標とみなされている1)

検査法の基礎理論 なぜこうなるの?

臨床化学分析談話会の"GOT活性測定法に対する標準的測定法"の解説

著者: 小川善資 ,   林長蔵

ページ範囲:P.453 - P.457

 "酵素活性測定は,影を測るようなものである"という言葉がある.これは酵素そのものを直接的な手段によって測定せず,酵素の持つ触媒としての能力を測定する以上,どうしてもつきまとう問題である.よって,影を作らせるための方策である投影法が明確でなければ,測定値が意味のないものとなる.現実には非常に多くの測定法があり,このため施設間の測定値が大きくバラつき,酵素活性測定に対する混乱は非常に大きい.
 このような混乱は国内的な問題だけではなく,国際的にも大きな混乱を生じており,各国臨床化学会や国際臨床化学連合,国際生化学連合酵素委員会までも含めた多くの機関で,この混乱を回避し,酵素活性測定の信頼度の回復のための努力がなされている.我が国においても,臨床化学分析談話会酵素委員会を中心に,活発な討議がなされ,日本におけるGOT活性測定の"標準測定法"確立のための基礎となる"標準的測定法"(以下,本法と略)が3年間の活動のまとめとして公表された.前述したごとく,諸外国においても既に数種の勧告案が提出されているにもかかわらず,我が国において新たに本法を提出するに至った理由は,正確な酵素活性測定のためのシステム全体を考えるという方向性でこの問題に取り組んだため,測定装置の性能を定めたこと,試薬の検定法やその規格を定めたこと,などの配慮がなされている.また,測定法においても,次のごとき点が他の勧告案にはない本法の特徴で,このような意味では最も親切で,最も改良された勧告案であることを望んで作成されたものである.

ヘモグロビン量の測定原理

著者: 松原高賢

ページ範囲:P.458 - P.462

 ヘモグロビン(Hb)の測定原理について,成書に取り上げてない事柄を問答式にくだけて解説しよう.

脂質染色の理論

著者: 高橋潔

ページ範囲:P.463 - P.468

 生体内に広く存在する脂質は単純脂質(脂肪酸と各種アルコールのエステル),複合脂質(アルコールと脂肪酸に加えて,更に他の化学基を含む脂肪酸エステル),誘導脂質(脂質の加水分解産物)に分けられる.単純脂質には脂肪(グリセロールの脂肪酸エステル)と蠟(ステロールの脂肪酸エステル)があり,グリセリド,コレステロール及びコレステロールエステルなどは荷電しないので中性脂質と称される.複合脂質にはリン脂質,糖脂質,硫脂質(サルファチッド),アミノ脂質やリポ蛋白が含まれる.これら脂質の証明法には一般脂質証明法と各種脂質の分離証明法とがあり,また脂質の物理化学的性状を利用する脂質証明法と各種脂質の化学構造ないし特有の化学基を目標とし,それらの何らかの方法で証明しようとする方法とがある.以下これらの方法の原理を中心に述べる.

読んでみませんか英文雑誌

ノカルディア症:文献的考察とノカルディア・アステロイデス感染症の1例報告

著者: 猪狩淳 ,   ,  

ページ範囲:P.494 - P.496

 緒言 ノカルディア症は急性または慢性の感染症であり,通常三つの型が知られている.すなわち,1)菌腫,四肢の皮膚あるいは皮下組織を侵す;2)肺疾患;3)全身性感染症である.この三つの型の中では肺疾患がしばしばみられることが多い.慢性感染症例では血行性に広がり,中枢神経系によくみられる全身性の病巣を作る.ノカルディア症であることを発見できなかった例や,治療が行われなかった例の死亡率は高く,そのために早期発見と適正な治療が必要となってくる.ノカルディア症はノカルディア属の三つの種によって惹起される.すなわち,N. asteroides,N. brasiliensisとN. caviae(別名N. otitidiscaviarum)である.N. caviaeによると報告された感染例は少ない.菌腫を作るN. brasiliensis(による感染)は中南米,インド,アフリカで高頻度にみられる.N. asteroidesはしばしば肺病変を作る原因となり,合衆国やヨーロッパでは最もよくみられる種である.

マスターしよう基本操作

大型滑走式ミクロトームの使い方

著者: 安藤怜子 ,   市川悦子 ,   大吉敏夫 ,   平山和子 ,   松山春郎

ページ範囲:P.497 - P.504

神経病理学では,病変の分布が臨床症状と密接な関連性があることや,病気により特異的であったりするために,昔から脳の大切片を作って観察することが行われている.しかし最近では,その他の臓器病理学の領域においても,臓器内の病変の分布が重要視されるようになってきて,大切片を作る研究室も増えてきている.ここではテトランダーの使用法として,当研究室における,脳の大型パラフィンブロックの切り方から切片の貼り付け方までを紹介する.

私の学校

東京電子専門学校臨床検査学科—エレクトロニクス多用性の時代にマッチした検査技術を!!

著者: 山本幸弘 ,   本間綾子

ページ範囲:P.507 - P.507

 東京の副都心と言われる池袋,サンシャインシティの傍に私たちの学校があります.1946年にラジオ技術学校として発足しましたが,1965年に校名が今の東京電子専門学校となりました.私たちの学校は臨床検査学科を含め,電子計算機学科,電子技術学科など10科,全校生約2,300名余りです.この中で医療技術系の学科としては診療放射線学科,医学電子学科があります.
 最近の臨床検査は現代のエレクトロニクスを応用した医用機器の導入が成され,エレクトロニクスの新しい分野となりつつあります.私たちの臨床検査学科は現代のエレクトロニクスに対応できる特色ある臨床検査技師を養成することを目的として,1973年に新設されたものです.したがって授業内容も本校の特色を生かしたものが多く取り入れられています.例えば物理学の実習やMEの実習では,臨床検査機器を構成している電子回路について考えたり製作したりしています.

東西南北

技術のイノベーションを予測する

著者: 古川俊之

ページ範囲:P.508 - P.508

 これからの医療技術の変革は,A(オートメーション),E(エレクトロニクス),I(ィンフォメーション,情報)の三つを中心に起こることは確実である.
 オートメーションという言葉は第二次世界大戦後の1946年に作られたが,何らかの操作を望む状態に自動的に維持する工夫は大昔からある.ギリシア時代も粉碾き風車に風力に応じて臼への穀物の供給量を加減する仕組みが考案されている.19世紀に入ると蒸気機関の自動調節の機構が幾つも発明され,サーボ機構という言葉が生まれている.サーボとは奴隷を意味し,機械の傍に座ったままで調節をするという有様を表している.しかし自動調節がオートメーションという概念に発展するには,大戦中のエレクトロニクス技術による精密化が必要であった.

最近の検査技術

ヘモグロビンAIの測定

著者: 原野恵子 ,   中島行正 ,   堀野正治 ,   原野昭雄 ,   岡村一博 ,   上田智

ページ範囲:P.509 - P.513

 正常成人のヘモグロビン(Hb)を構成するグロビンには,α鎖,β鎖,γ鎖,δ鎖があり,それぞれアミノ酸組成が異なっている.主成分であるHbAはα2β2から成っており,微量成分であるHbA2はα2δ2,HbFはα2γ2から成っている.HbA2の含量は総Hbの1.8〜3.2%,HbFは1%以下である.そのほかに陽イオン交換樹脂で,HbAよりも早く溶出されるHbAIa,HbAIb,HbAIc(総称としてHbAI)が存在することが知られている1).近年,糖尿病患者においてHbAIc分画が増加することが明らかになり2),HbAIcの簡便な定量法が必要となった.しかし,微量分画であるHbAIa,HbAIbも同時に増加することが示されたので,これらをまとめたHbAIの定量ができればよいと考えられ,原法のカラム法を小さくした各種ミクロカラム法3,4)が開発されミクロカラムを応用したHbAI測定キットが市販されるようになった.

知っておきたい検査機器

複写機

著者: 笠井敏晴

ページ範囲:P.514 - P.517

 複写機の種類と原理
 今日,複写機は情報化社会における情報伝達の手段として,一般のオフィスはもちろん官庁,学校,病院などで広く利用され,稼働台数は国内で約100万台と言われている.ただ複写機と言っても多くの種類があるので,このうち代表的なジアゾ複写機,直接静電複写機,間接静電複写機について紹介する.

おかしな検査データ

SMACで遭遇した問題点 Ⅱ

著者: 金森きよ子 ,   佐野紀代子

ページ範囲:P.518 - P.519

 前号に引き続いて標準血清と検体側の問題について述べる.

トピックス

非リン菌性尿道炎とクラミジア

著者: 菅原孝雄

ページ範囲:P.452 - P.452

 近年,アメリカ,イギリス,そのほかの先進諸国では,リン菌によらない尿道炎,すなわち非リン菌性尿道炎(nongonococcal urethritis;NGU)が増加し社会問題に発展しつつある.NGUの原因としてはChlamydiatrachomatis,Ureaplasma urealyticum(T. Mycoplasma)及びHemophilus vaginalisが重要な病原体であると考えられている.
 これらの病原微生物は性行為によりヒトからヒトへと感染するが,なかでもC. trachomatisは最も重要な病原体で,NGUの約40〜50%を占めると言われている,本病原体はDNAとRNAの両核酸を有し,ムコペプタイド性の細胞壁を有することから,ウイルスというよりはむしろリケッチアに近い微生物と考えられ,増殖は細胞中でのみしか行われない.

コーヒーブレイク

島育ち

著者:

ページ範囲:P.481 - P.481

 この冬,視察と見学を兼ねて奄美大島へ出掛けた.私には初めての土地である.鹿児島からYS-11で80分,着いた奄美大島は秋と春と一緒の山の粧いで,紅葉とともに,ハイビスカス,ブーゲンビリア,ポインセチアの咲き乱れる美しさであった.
 島の東北端の飛行場から,南端の古仁屋までは,途中名瀬市経由で,幾つかの峠を越える車で約3時間の道程である.

趣味

著者:

ページ範囲:P.513 - P.513

 ある時期,仕事の関係者から"ご趣味は?"と聞かれたことがある.その度に"私には自慢するようなものはないので"と答えてきた.無趣味が趣味ですという人もいるが,何かきざっぽい."じゃ,勉強や研究がご趣味ですか?"多くの人は物足りない顔をして帰ってゆく.趣味で勉強や研究ができたらとつくづく思う.きっと良い仕事ができるかもしれないなど,自分の努力を棚上げして勝手なことを思う.
 ある本に医師の趣味がアンケートの返事として載っていた.ゴルフが最も多く,音楽(多分観賞),旅行,テニスと続く.スポーツを除くと,音楽,旅行,読書,美術などとなる.もちろん切手をはじめとする人形や動物玩具の蒐集から,昆虫やカタツムリ採集・飼育,考古学研究,キリシタン遺物研究あるいは飛行機の操縦まで,かなり特殊なものもみられるが,人に聞かれると,最も無難なものという返事になってしまうのかもしれない.

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医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.505 - P.506

 1221)乱視;astigmatism
眼球の光学系の屈折面が正しく球面になっていないため,外界の一点からの光線が眼内で一点に集合しない状態.先天性で遺伝による正乱視と後天的に角膜のいろいろな疾患により起こる不正乱視がある.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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