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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術9巻10号

1981年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

慢性腎不全—腎透析

著者: 小出桂三

ページ範囲:P.770 - P.775

 慢性腎不全とは
 種々の腎疾患が進行し,腎機能が次第に低下し,ついに生体の内部環境の恒常性の維持が出来なくなった状態を慢性腎不全という.具体的には,血清クレアチニン濃度が2mg/dl以上を持続しているもの,あるいは血清尿素窒素が20mg/dl以上持続しているものを慢性腎不全という.

技術講座 生化学

無機リンの定量法

著者: 正路喜代美

ページ範囲:P.798 - P.803

 リンは核酸やリン脂質,カゼインなどとして摂取され,腸管で加水分解され,HPO42-やH2PO4-となって吸収される.生体内のリン化合物の80〜90%は3・Ca3(PO42・Ca(OH)2(Hydroxyapatite水酸化リン灰石)として骨や歯など硬組織を形成し,骨格維持と代謝プールに備えている.血清中のリン化合物には,アデノシン三リン酸(ATP),クレアチンリン酸,ヘキソースリン酸,2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3・DPG),核酸などエネルギー代謝物質や,有機溶媒に抽出されるリン脂質,一部蛋白と結合している有機リンがある.これらの測定の有意性が認められているものもある.
 一方,酸に溶解する無機リンがあり,HPO42-,H2PO4-,Na2HPO4,CaHPO4,MgHPO4などの型で血漿中に存在し,リン酸緩衝系として他の電解質とともに酸塩基平衡に寄与している.血漿無機リンの93〜99%は腎の糸球体より排泄され,一部細尿管にて再吸収される.Naと結合しNa2HPO4として尿をアルカリ性とし,遠位尿細管付近でHの影響をうけてNaH2PO4となり尿を酸性化する.

細菌

抗酸菌の分離法

著者: 工藤祐是

ページ範囲:P.804 - P.807

 抗酸菌感染症への対応は診断,治療,予後,予防のすべてにわたり病原菌の検出が前提となる.
 抗酸菌の検出手技は塗抹染色,分離培養,動物接種に大別できる.このうち塗抹染色は抗酸性染色(チールネールゼン法と螢光法が広く用いられている)によって材料中の抗酸菌を直接に探し求めるものであるが,検出感度は分離培養よりもかなり劣るのみならず,菌種の判定はほとんど不可能であり,死菌も生菌と同様に染め出される.したがって結核症が減少し,その他の抗酸菌の検出される頻度の多くなった地域や化学療法下では,この方法は検出のスクリーニング以上の意義はなくなったと言っても過言ではない.また動物接種による菌検出は,抗酸菌のうち結核菌群にのみしか応用できないが,結核菌でも検出能力が分離培養よりも優れているとは言えないし,その設備や経費,人手などの点から臨床検査にとり入れにくい(分離培養で汚染を繰り返す材料にときに試みられる).

病理

パラフィンに代わる新しい包埋法による標本作製—アクリトロン包埋法の実際

著者: 瀬野尾章 ,   高橋宏治 ,   松田祐子

ページ範囲:P.808 - P.812

 パラフィンに代えて樹脂を用いる包埋法は,近年になって研究ならびに実用化が活発に行われている.なぜならば,樹脂包埋標本はパラフィン包埋標本に比べ,標本作製過程で生じる歪み(distortion)が少なく,組織構築,細胞内構造の保存に優れており,仔細な細胞学的観察ができ,また酵素組織化学や免疫組織化学的検索も可能で,さらに同一ブロックから直接電顕的な検索も可能であるという多くの利点を持っているからである.このような利点を考えたならば,パラフィンに代わっての使用頻度は今後ますます多くなるものと思われる.
 今回は我々が開発したアクリトロン包埋法を中心にして標本作製過程(図2)における技術的な面を具体的に解説するが,パラフィン包埋法においてはなじみのうすい点,特に酵素組織化学的手技について詳細に述べることにする.

一般

髄液細胞数検査

著者: 水田亘

ページ範囲:P.813 - P.816

 髄液(Cerebrospinal Fluid, CSF)は,側脳室の脈絡膜血管叢で分泌され室間孔から第3脳室に入り,正中口と外側口を通ってクモ膜下腔に流れ込んでいる液であって脳脊髄を保護している.全量は約160mlで,うち約25mlは脳室内に存在している.約80%の髄液は,上矢状静脈洞の中とその付近に多数存在しているクモ膜顆粒,またはその付近の静脈を介して静脈管中に吸収され,残りは脊髄管にある同様の組織から吸収される.したがって髄膜や脳脊髄の疾患を直接に反映して髄液の組成に変化が起こる.日常検査としては外観,細胞数,グロブリン反応,蛋白濃度,糖定量などを同時に検査する.髄液の採取は腰椎穿刺によって腰部クモ膜下腔から普通採取するが,時には後頭下穿刺によったり,脳室から採取する場合もある.

検査法の基礎理論 なぜこうなるの?

心カテーテル法で何が分かるか

著者: 小松親義 ,   元山幹雄 ,   吉村正蔵

ページ範囲:P.776 - P.780

 1929年,Forssmannにより始められ,その後Cournandらにより集大成された心カテーテル法は,循環器疾患の診断,治療に欠かせないものとなった.
 経静脈的に右心系を検査する右心カテーテルと,経動脈的に左心系を検査する左心カテーテルに分けられる.また近年,Sonesらによって始められた選択的冠状動脈撮影法は虚血性心疾患の検査法として,我が国でも急速に普及してきた.更に,1970年,Swan,Ganzらにより,バルーンカテーテルが考案され,ベッドサイドで非透視下にカテーテルを肺動脈まで挿入し,治療による心機能の変化等を経時的にモニターできるようになった.

ブドウ糖負荷試験

著者: 土井邦紘 ,   吉田泰昭 ,   馬場茂明

ページ範囲:P.781 - P.788

 ブドウ糖経口負荷試験は糖尿病の検査法として信頼度が高く,古くから広く使われてきた.しかし,検査法を過信するあまり,糖尿病ではない人を糖尿病と診断するおそれもある.したがってブドウ糖負荷試験を糖尿病の診断法として使用する場合には,当然のことながら,負荷法の種類,判定基準,さらに負荷実施時の注意事項,特に採血法及び測定法など十分熟知しておく必要がある.本稿は現在よく用いられている糖負荷試験法の種類,判定基準,最近新しくWHO,NIHから発表された糖尿病の分類と診断基準について概説する,付記として,ブドウ糖負荷試験に基づく血糖曲線について,多変量解析法に基づき,発現機序あるいは糖尿病病態の解析を行った我々の成績についても言及する.

イオン選択性電極法(II)—問題点

著者: 山口重雄 ,   桑克彦

ページ範囲:P.789 - P.797

 イオン選択性電極法(イオン電極法)によるナトリウム,カリウム,クロールの測定は,炎光法や電量滴定法による従来法と測定原理が異なる電気化学的分析法である.臨床検査室におけるイオン電極法の利用は,従来,pHメーターが主であった.しかし,イオン電極法による電解質の測定も,分析手段としてはpHメーターと同じであるが,生体試料を直接に取り扱う点で,pHメーターでは経験しなかった種々の問題が起こってきている.
 ここでは,前号のイオン電極法の基礎に続いて,日常検査で遭遇している血清電解質測定上の問題点について取り上げ,従来法との解離現象,標準液の問題,正確度の決め方などを中心に考えてみることにする.

マスターしよう基本操作

ポリアクリルアミドゲル電気泳動法

著者: 高橋朋子

ページ範囲:P.817 - P.824

 約20年前に開発されたポリアクリルアミドゲル電気泳動(Polyacrylamide gel electrophoresis;PAGE)は,①分離能が優れ再現性がよい,②試料が微量でよい,③操作が簡単である,などの理由で,今や生物学的試料(蛋白質,核酸及び他の荷電高分子)の分析に必須の手技となっている.PAGEは泳動形式により,①ディスク(Disc)電気泳動—ガラス管中の円柱ゲルで泳動する,②スラブ(Slab)電気泳動――2枚のガラス板にはさんだシートゲルで泳動する,がある.また,泳動系にSDS(Sodium dodecyl sulfate)を含有するか否かにより,①SDS-PAGE――各成分の大きさの差で分離する,②いわゆるPAGE――各成分の荷電と大きさの差で分離する,の2種類がある.ここではディスク法に話を限ることとし,蛋白質の相互分離を目的とした基本的手順(いろいろな工夫や変法もあるが,著者が行っている方法を中心に)を述べる.PAGE一般の原理や詳細については文献1〜4を参照されたい.

検査を築いた人びと

心臓活動電流の発見者 ケリカー

著者: 酒井シヅ

ページ範囲:P.825 - P.825

 現代の心疾患の診断は心電図抜きには考えられない.いうまでもなく心電図は心臓の活動電流を記録したものであるが,心臓が収縮するときに電気現象が起こることを発見したのがルドルフ・アルバート・フォン・ケリカーとヨハネス・ミュラー(1801〜1858)であった.ここではケリカーについて語ろう.

自慢の職場

神戸市立中央市民病院検査室

著者: 内田博也 ,   水田亘

ページ範囲:P.826 - P.827

 当院は市民に最も進歩した医療サービスを提供する神戸市の基幹病院として,今年3月8日からポートアイランドに,新築移転し内容が一新された.病院新築の理念にしたがって我々の検査部にも多くの新しい試みが盛り込まれた.自慢の種は多々あるが,その主なものについて紹介する.

私の学校

北里学園衛生科学専門学院—積極的で向上心に富む技師を目ざして

著者: 小坂仁美

ページ範囲:P.828 - P.828

 西に八甲田山,南に十和田八幡平を仰ぐ青森県十和田市に,昭和42年,衛生検査技師養成校として設立された本校は,昭和46年臨床検査技師養成校となり現在に至っています.既に学窓を巣立った卒業生は1300名にも達し,各地の病院,研究機関で活躍しています.
 本校は北里大学獣医畜産学部とキャンパスを同じくし,休憩時には図書館でページを繰る者,体育館で汗を流す者,庭のベンチで談笑する者と,非常に恵まれた環境を持っています.学部の教授,本学出身の講師,あるいは遠く岩手医科大学から来てくださる講師の方々には,厳しいながらも人間味あふれる講義をしていただき,学業修得のためには最高の場であると思います.

おかしな検査データ

異常高値蛋白尿の経験

著者: 日東真貴子

ページ範囲:P.829 - P.830

 当検査科では蓄尿蛋白定量をKingsbury-Clark法で行っている.ある日突然,蓄尿蛋白量5,200mg/dlという異常に高い測定値を示す検体に遭遇した.患者は,頻脈,眩暈及び全身倦怠を訴え,精査のため入院した27歳の女性である.入院時の検査データは新尿では蛋白(+),潜血(+),沈渣その他の結果は特に所見は認めなかった.肝機能,T3,T4は正常であり,末梢血検査ではWBC 6,100/mm3,RBC 333万/mm3,Hb 7.8g/dl,Ht 25.4%,CI 0.73とやや低色素性貧血を示した.
 この異常高値蛋白尿を濃縮することなく原尿と患者本人の血清及び対照として正常血清を用い,セルロースアセテート膜(セパラックス)による蛋白分画を実施した.尿の分画像はアルブミンが正常より陰極よりであり,fast-γ位にM蛋白を示し,slow-γ位に非常に僅かなバンドが見られ,尿とは思われないパターンを示した.患者血清(蛋白濃度6.2g/dl),対照血清(6.5g/dl)はともに正常なパターンであった.

知っておきたい検査機器

イアトロスキャンTH-10

著者: 高瀬和正 ,   石井重吉

ページ範囲:P.831 - P.836

 最近の臨床検査機器の進歩は著しいものがあり,測定の簡易化,迅速化ということで,自動化,多チャンネル,コンピューターによるデータ処理など,大量迅速処理の大型のものから,単能機的な緊急用,ベッドサイド用といった小型の機種まで広く普及している.このような装置の発展とともに,検出機構も,光学的,電気化学的検出器が開発され,発展してきている.
 分析方法として,混合物中の目的成分だけを検出,測定する方法,混合物を分離し,混合成分として各々検出,測定する方法がある.クロマトグラフィーは,混合物の分離分析法として非常に優れた分析手法として知られている.クロマトグラフィーは,移動相と固定相の組み合わせにより,液体クロマトグラフィー(LC),ガスクロマトグラフィー(GC)とに分類されている.その中で,薄層クロマトグラフィー(TLC)は,簡便なLCとして利用されている.

最近の検査技術

Protein Aを用いた血清学的応用

著者: 新井義夫

ページ範囲:P.837 - P.841

 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からの菌体成分の抽出分離は,他の病原性菌と同様に,病原性に関与する構成部分及び血清診断の際に使用される抗原として,有効な成分の分離が主な目的である.
 Verway1)(1940)はブドウ球菌の特異的抗原の存在を報告したが,その後Jensen2)(1959)により再発見されAntigen Aと命名された.JensenはAntigen Aのブドウ球菌感染症における特異的な血清反応を期待していた.しかしAntigen Aは,健康人及びブドウ球菌感染症を含む各種疾患のすべての血清と寒天ゲル内沈降反応が認められた.これはのちになって,免疫グロブリンとの反応であることが判明した.

読んでみませんか英文雑誌

症例検討:臨床化学における薬物妨害

著者: 猪狩淳 ,   ,  

ページ範囲:P.842 - P.844

 はじめに 薬物によって惹起される生理的異常あるいは分析法に与える薬物またはその代謝物の妨害は,化学検査値を誤まらせる原因となり得,それは臨床上の成績解釈を誤まらせることになる.次の症例がこの問題点を示している.
 症例 59歳のインスリン依存性糖尿病の婦人が2日間にわたる発熱,悪寒,緑色喀痰を伴う咳嗽で入院した.患者は毎朝30単位のNPHインスリンを使用していた.彼女には前にペニシリンに対するアレルギー反応の既往歴がある.入院1週間前より血圧が上昇したために,毎朝50mgのクロロサイアザイド投与を開始した.

トピックス

長時間心電図

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.775 - P.775

 心電計は生理学者や医師にとって不可欠の検査器具であることはいうまでもない.1893年にアイントーベンの弦電流計が登場して以来,現在の直記式の心電計に至るまで機器としての進歩は著しく,ことに簡便さや移動性などでそうである.
 しかし,心電図検査が1日のほんのわずかの時間での心臓の活動を記録するにとどまっていたことにはかわりなかった.心臓の病変には左室肥大とか心筋梗塞(陳旧性)とか比較的安定して,いつ検査しても同じ異常所見を見いだすものもあるが,不整脈,狭心症など,ある時期にしか出現しないものもあり,この場合は,任意の一点での検査では見逃してしまうことのほうが多いと思われる.そこで長時間にわたる連続した心電図が必要となり,実際CCUなどでの重症例については異常出現を長時間にわたってモニターしている.しかし,外来患者,軽症患者にこれを行うことは不可能である.

コーヒーブレイク

夏休み

著者:

ページ範囲:P.812 - P.812

 最近の検査室は人工の環境で業務が行われるように作られているので,季節感がなくなる,殊に緑の少なくなった都会では,人工環境なしには暮らせないようになっている.
 神戸大学医学部のある楠町では,朝5時半になると蟬時雨が突如として始まり,とても寝ていられなくなる.8月も半ばになり立秋を過ぎると,蟬時雨も6時ごろになり,朝も少し遅くなる.海を渡ってくる風も急に涼しくなり,暑い中にも秋が感ぜられる.

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略語シリーズ

ページ範囲:P.830 - P.830

ALD aldolase;アルドラーゼ.ALDは,フルクトース1,6二リン酸(FDP)を,ジオキシアセトリン酸(DHAP)とグリセロアルデヒト三リン酸(GAP)とに可逆的に分解するとともに,フルクトース1リン酸(FIP)をジオキシアセトンリン酸とグリセロアルデヒド(GA)に不可逆的に分解する.A,B,Cの3型があって,A型は筋肉,心筋に,B型は肝,腎に,C型は脳にあるので,肝,心筋,筋肉の疾患で上昇する.
RPR card test rapid plasma reagin card test for syphilis;迅速梅毒カード試験,脂質抗原を炭素粒子に吸着させて,梅毒患者血漿との間に,カードの上で凝集反応を起こさせるもので,数滴の採血で,10分以内に肉眼で判定できる簡易法である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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