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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術9巻4号

1981年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

流行性出血熱

著者: 福見秀雄

ページ範囲:P.298 - P.301

 流行性出血熱とは
 流行性出血熱というのは急性に起こる感染症で,その症状として急性の発熱と出血がきわだった特色をなすような一群の疾患,いうならば症候群である.発熱は概して高熱で,出血は体組織のどこということなく起こるようであるが,疾病の症状として目立って観察されるのは皮下出血や腸出血などで,吐血,下血がしばしば注目される.しかしこの疾病はあくまでも症候群であって,この症状を起こす病原体は単一ではない.しかも分類学的にも必ずしも類縁関係のないものが,この症候群の病原体として包括されている.
 実際,流行性出血熱には病原体の面から見れば種々雑多なものが入ってくる.

技術講座 生化学

生化学検査におけるプログラム言語

著者: 押見淳 ,   田牧圭二

ページ範囲:P.320 - P.325

 近年,医療の分野におけるコンピュータの普及はめざましいものがある.当初は,心電計など医用計測機器からの物理信号を解析するアナログコンピュータが主体であり,限られた領域での利用にすぎなかったが,ディジタルコンピュータの普及,発達に伴い,医療各分野へ各種のコンピュータが導入されつつある.それは,患者登録,予約,会計などの医事システムにはじまり,病歴ファイル,処分,給食,サプライの管理,臨床検査システム,さらにはCTスキャナーのような高度の画像診断システムにまで及んでいる.
 このようなコンピュータの広がりは,それがハード的にもソフト的にも扱いやすいものになったことや,小型・低廉化したことなど,computer-technologyの急速な進歩に負うところが多い.一方,常に発展しその機能を拡張しつつある医療にとって,そこから発生する莫大で複雑な情報をいかに円滑に処理,利用していくかという認識が,大きな原動力となっているということは言うまでもない.

血液

白血球の特殊染色(II)—ホスファターゼ染色

著者: 古沢新平 ,   及川信次

ページ範囲:P.326 - P.330

 ホスファターゼにはアルカリ域に至適pH(8〜9)を有するアルカリ性ホスファターゼ(ALP)と,酸性域に至適pH(5.2〜5.4)を有する酸性ホスファターゼ(ACP)とがあり,いずれも細胞質のライソゾームに含まれている.両酵素とも染色法の原理はアゾ色素法によっている.

生理

超音波による僧帽弁機能検査

著者: 鈴木政登 ,   鈴木恒夫

ページ範囲:P.331 - P.338

 心臓の超音波診断の歴史は浅く,超音波透過法を利用した心臓の定量測定の試みが,1950年にKeidel1)らによってなされたのが初めである.1954年にEdlerら2)が超音波反射法の利用により,僧帽弁狭窄症の患者の僧帽弁反射エコーが特徴的な波形を呈することを発表して以来,超音波による心臓機能検査が爆発的に普及した.超音波を使った心臓機能検査は僧帽弁エコーを中心として発展してきたと言っても過言ではなく,その普及の理由として,次のようなことが挙げられよう.
 (1)心臓弁膜のうち僧帽弁が最も容易に記録できる.(2)僧帽弁は左心系房室間に位置し,左房・左室間の圧関係を鋭敏に反映する.(3)僧帽弁のエコーパターンにより左心機能の評価ができる.(4)僧帽弁エコーパターンの異常から,種々の僧帽弁膜症の診断に有益な情報が容易に得られる.

一般

電気泳動のための体液の濃縮法

著者: 𠮷沢一太

ページ範囲:P.339 - P.344

 体液(尿,髄液,胸・腹水,関節液,唾液,胃・十二指腸液,糞便,乳汁など)の電気泳動に際しては,一般に血清蛋白に比しその濃度が低いので,蛋白分画が可能な3g/dl以上に試料を濃縮する必要がある.
 また,関節液にはヒアルロン酸,胃液にはムチンなどのムコ多糖体が多量に含まれていて粘稠性が高く,泳動像に影響があるので分解酵素で処理しなければならない.しかし,試料の保存,処理,濃縮を適切に行えば,その後の分画操作は血清蛋白のそれと同じであるので,比較的簡単に実施することができる.

検査法の基礎理論 なぜこうなるの?

ネフェロメトリー

著者: 𠮷野二男 ,   大澤久男

ページ範囲:P.302 - P.306

 呈色反応などを利用した吸光分析は,検出目的対象物質の化学的特質や量によっておのずから制約があり,光源・受光検出部などの電気的な特性もあり,検体の微量化と特異性などに問題をもったものであったが,臨床検査として検査の迅速化と検体の微量化は要求され続けている.
 免疫学的手法を用いると測定対象物に対して特異性の高い測定ができるし,かつ化学反応を用いての吸光分析よりも極めて微量のものでも測定可能となる.今まで,このような抗原抗体反応を利用した臨床検査法は定性的なものであり,一部で半定量的なものがあるにすぎなかった.それは,抗原抗体反応により生成した不溶性沈殿物などを,肉眼による観察以外に測定するに適切な機器を持たなかったからである.

PFDテスト

著者: 細田四郎 ,   中木高夫 ,   吉岡うた子

ページ範囲:P.307 - P.312

 PFD(pancreatic function diagnostant)テストは膵外分泌機能検査法の一つであるが,膵外分泌機能検査は各種膵疾患,とくに慢性膵炎の診断と経過観察のうえに不可欠のものである.
 これまで膵外分泌機能検査としてPS試験(パンクレオザイミン・セクレチン テスト)が行われていた.この方法は,被検者の十二指腸に挿管し,消化管ホルモン(パンクレオザイミンおよびセクレチン)を静脈注射して膵外分泌機能を刺激し,十二指腸内に分泌された膵液を採取し,①液量,②最高重炭酸塩濃度,③総アミラーゼ排出量の3因子を測定するものであり,膵外分泌機能をよく反映する優れた方法とされている.しかしながらPS試験では十二指腸への挿管が必要であり,挿管困難例ではX線透視下で挿管することもあり,被検者に苦痛を与えること,検査手技が煩雑であること,などの理由から,ルーチン検査として広く一般病院に普及するには至っていない現状である.

コンピューターを使った検査データのチェック

著者: 中村明 ,   屋形稔

ページ範囲:P.313 - P.319

 個別データ管理の必要性
 臨床検査の結果は,真の値に様々なプラスあるいはマイナスの誤差で修飾されたデータとして報告されている.誤差の要因は,患者から検体が採取され分析が行われ医師の手元に報告書が届くまでの各過程において発生する.このため十分な精度管理を行い,精度の維持向上の努力がなされている.
 精度管理は,プール血清や市販管理血清など管理用試料と検体で同一処理し,その値をx-R管理図法,ツインプロット法,Cu-Sum法などで全体の検査値を管理する方法が一般的で,これらは多くの検査室で実施されている.この管理法は,分析上のエラーの発見や原因の究明に役立っていることは言うまでもない.しかしこのような精度管理は測定値を直接管理せず管理試料の成績から間接的に管理するだけであり,個々の検体成績については疑問がある.更に最近は多くの項目が自動分析機で測定され,検体の微量化,迅速化,それに精度の向上がなされている.しかし自動分析機でも,複数の管理試料の値が管理限界内にあるのに考えられないほどの極端な異常値が出たり,もっともらしい偽の値が打ち出されてくることがあり,機械を過信してはならない.

マスターしよう基本操作

鞭毛染色法

著者: 増谷喬之 ,   桜木麗子 ,   藪内英子

ページ範囲:P.345 - P.352

 鞭毛形態の観察は細菌の属または種を同定するために必要な検査法であり,正確な同定結果を得るのに不可欠の場合も少なくない.鞭毛染色法には,レフレル法を初め,西沢・菅原法,戸田法及びレイフソン法などが知られているが,日常検査に応用するには,簡単な操作で美しい染色像の得られる方法が望ましい.レイフソン法は染色操作が一度だけであること,染色液を長く保存できること,及び終未点がよく分かることから,日常検査にとり入れやすい.ここではレイフソン法の実技とその染色所見を図示し,鞭毛染色の基本操作を解説する.

検査を築いた人びと

細菌検査法の基礎を作ったローベルト・コッホ

著者: 酒井シヅ

ページ範囲:P.353 - P.353

 細菌学が医学の新しい分野として登場したのは18世紀の後半であり,その歴史はまだ100年と少しである.その新しい学問を生み,育てるのに決定的な役割を果たしたのがローベルト・コッホ(1843〜1910)である.
 コッホの父は鉱山監督官であったが,13人兄妹の大家族のため,きわめて質素な生活を送っていた.両親はローベルトを商人にしようと考えていたが,船医になり,世界を回ることを夢見ていたローベルトはゲッチンゲン大学医学部に入学,1866年に卒業した.

自慢の職場

日立製作所戸塚病院臨床検査科

著者: 小幡英生

ページ範囲:P.354 - P.355

 当院は日立製作所戸塚工場付属病院として,1952年創立,東海道線戸塚駅の近く,環境の良い所にあります.創立以来今日までに三度の増改築を行いましたが,ベット数112床の小病院です.
 当初の検査室は2〜3部屋で小じんまりとしていましたが,年々検査件数が増大し,対処不能となってきたため,1974年,合理化と能率向上を主眼とした検査室を別棟として新設しました.更に1980年9月,新たに総合健診システムによる総合健診センター(以下健診と略す)が同一敷地内に新設しました.現在は,コンピュータの導入により,病院と健診の2か所の検査室が稼働しています.

私の学校

埼玉医科大学附属医学技術専門学校—職場と学校が同じ恵まれた環境の中で

著者: 森菊夫

ページ範囲:P.356 - P.356

 国鉄八高線を毛呂駅で下車すると,目前に白亜のビルの埼玉医大が,武蔵野を見下ろすように建っている.そこに埼玉医科大学付属医学技術専門学校(夜間),通称技専がある.技専は,医大とほぼ時を同じくして開校され,今年の新入生をもって9回生となった.医大付属ということから,授業は斯界の権威で,トップレベルの先生方が教えてくださり,また教室,図書館などの施設が利用できることから,充実した授業が受けられる.
 学生は全国各地から集まっており,昼間はほとんどが付属病院内の研究室,検査室,医務関係で働いている.そのため仕事中に顔を合わすこともしばしばで,院内では一つの連帯感が感じられる.

おかしな検査データ

血餅退縮"0",血清分離不能の一例

著者: 上田尚紀

ページ範囲:P.357 - P.358

 およそ1年半前のことであるが,検査室で血清分離を担当していたものが,"変だな,1本だけ遠心しても血清のとれない検体がある"とつぶやいた.再度3,000rpmで遠心したが結果は同じであった.採血後約1時間経っているので凝固は完全に終了しており,本来ならば淡黄色透明な血清が分離されるはずであった.
 ちょうどそのとき,今度は血液検査室から,"血餅退縮試験で退縮の全く見られない検体があり,血小板無力症でしょうか?"と連絡があった.調べてみると,先ほど血清の分離ができなかった検体と同一人のものであった.血小板無力症であれば血餅の退縮は全く見られないが,凝塊はもろく崩れやすいのが普通である.ところが本患者の凝塊は緊張性が強く,遠心しても振ってもfall out(落ちこぼれ)がなく,その解釈が困難であった.だからといって静観しているわけにもいかず,なんとか血清を分離すべく努力を開始した.

最近の検査技術

高速液体クロマトグラフィーによるアイソザイム分析

著者: 松本宏治郎

ページ範囲:P.359 - P.366

 近年,水溶性高分子物質に対して吸着性の少ない樹脂が開発され,高速液体クロマトグラフィーによる蛋白質や酵素の分離が可能となり,今後検査室でも,このような分離分析の手法が,支持体電気泳動法などと併行して実施されるようになると思われる.そこで,本項では,簡単に高速液体クロマトグラフィーについて概説し,これを用いた乳酸脱水素酵素アイソザイムの分離定量への応用を中心にその特徴を述べる.

知っておきたい検査機器

Ferro-Chem 3050

著者: 内田正喜 ,   茂手木皓喜

ページ範囲:P.367 - P.371

 最近の臨床検査機器の進歩の中で特に顕著なのは,専用分析機器の開発と普及であろう.これはある成分を専門に,簡易,自動測定する機器で,最も広く普及しているのは電気分析の理論を応用したものである.この中でまた盛んなのはイオンセンサーを応用した機器である.今や血液ガス成分,Na,K,Cl,Ca2+,Mg2+などの無機成分のほかに,固定化酵素を併用して,グルコース,尿素窒素などの測定が,全血を利用して簡易に分析でき,リアルタイムの機器として広く実地診療に用いられている.
 そして最近,画期的な機器としてクーロメトリーを応用した,Ferro-Chemが登場した.これは血清鉄及び総鉄結合能を,従来に比べて極めて微量の血清を用いて,簡易,迅速に測定する機器で,登場間もなく急速に普及しつつある.これは米国のESA(Enviromental Science Associates)社によって開発されたもので,以下その概要を説明する.

読んでみませんか英文雑誌

血小板吸着—レファレンスコントロールにおける誤差の原因

著者: 猪狩淳 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.372 - P.374

 血小板のレファレンスコントロールを作製するには,通常グルタルアルデヒドを用いているが,血小板の膜を化学的に交差結合する物質により強くすることが必要である.この反応は血小板をプラスチックの,あるいはガラスの表面に強く吸着させる.市販されているレファレンスコントロール物質を調べると,計算容器への(血小板の)吸着が示された.表面活性剤は吸着を阻止するが,大きさを有意に減少させる原因となる.ポリエチレングリコールが(測定機器の)伝導度を変えることなしに,吸着を阻止することが出来る.

トピックス

糸球体腎炎と免疫複合体

著者: 菅原孝雄

ページ範囲:P.344 - P.344

 免疫複合体(immun complexes;ICs)と腎臓病症候群の関連は,SLE,HBs及び梅毒で注目されている.梅毒性糸球体腎炎は,Treponema pallidum(TP)とその抗体によって形成されるICsが,糸球体に貯蔵されて起こるもので,二期梅毒の患者に多くみられる.
 ICsは腎臓バイオプシーによって得た検体を,電子顕微鏡や螢光抗体法で調べることにより証明が可能である.ICsを形成する免疫グロブリンはIgGとIgMであることが知られ,この他,C3成分の存在も確かめらている1)

病理標本作成の全自動化

著者: 浦野順文

ページ範囲:P.374 - P.374

 病理の標本作成のための自動化は,他の部門に較べてたいへん遅れている.自動包埋装置は真空吸引することによって有機溶媒体やパラフィンの浸透を速くし,パラフィンに短時間で包埋できるようになった.染色の過程も自動化することができ,頻度の多いヘマトキシリン・エオジン染色はほとんどの施設で,自動染色機を用いて染色している.
 更に染色された標本にカバーグラスをかけて封入する過程は自動化が困難とされてきた.この封入の際にはキシロール中の染色された標本を載せたスライドグラスを取り出し,カバーグラスをかぶせるので,どうしてもキシロール蒸気は吸入することになり健康上もよくない.この困難とされていた自動封入機が英国で作られている.簡単のようだが封入剤をカバーグラスの上にたらす,これは多すぎても少なすぎてもいけない.このカバーグラス上に移動してきた標木を載せたスライドグラスに下からカバーグラスを密着させ,軽く押し上げるようにするといった一連の作業が,自動的に行われる.この封入の作業では手でやっても気泡が入りやすく,ちょっとした熟練がいる.これを機械が行うので現在の段階では完全に気泡を除くということは必ずしも容易ではない.また標本の位置をスライドグラスの一定の幅の中にあるように標本をスライドグラスの上に載せないと,カバーグラスが標本を覆うことができない.機械はスライドグラスの一定の場所にしかカバーグラスで覆わない.これは標本を作るときの注意で事足りるし,大きなカバーグラスを用いることで,多少の無駄はあるが補える.

コーヒーブレイク

病理検査室に最低限必要なもの

著者:

ページ範囲:P.330 - P.330

 最近は中央検査部の中に含まれていた病理検査室が独立する傾向にある.病院の診療活動の中で手術・生検材料の検索,剖検,それと関連した手術材料のカンファランス,CPC(剖検症例の臨床家との検討)など独自の活動分野があるために独立するようになった.この独立した病理部はまだ歴史が新しいので,いくつかの問題点を抱えている.
 まず第一に病理部に必要な基準面積が決まっていない.最近も新しくできる病院の病理部の設置に関して相談を受けることがあったり,新しい病院を見学することがあって,この問題を痛感する.例えば大学病院の病理検査室が廊下の一部を仕切ったような,うなぎの寝床のようなところで病理検査室の活動が営まれているような所もある.したがってこのような状態しか知らないような環境で育った医師たちは,病理はそれでよいと思うようになってしまうので,それが病院設計にも反映されるのではないかと思われる.

肉眼標本作成の専門家が必要

著者:

ページ範囲:P.366 - P.366

 日本全国の死亡者数は約70万人で,最近の5年間ほぼ変動はない.これに比して剖検数は徐々に増加し昭和54年の剖検数は32,000で,5年前に比し30%以上増加している.剖検率も死亡者総数の3.3%から4.3%と増加している.遺体を医学の研究に捧げてくださる方が,年年増加していることになる.剖検して,病気の本態を少しでも明らかにすることは明日への診療の糧になるのであって,剖検は医学にとって欠かすことはできない.
 この貴重な剖検材料は医学の研究のためばかりでなく,学生の教育にも是非必要である.今まで病理部門の検査技師というと標本作成(光顕や電顕)や,染色などといったことを誰しもが考えて来た.しかし貴重な剖検材料の肉眼標本を整理保存することは医学の教育を考えるときには欠かすことはできない.現在は真空パックも可能になり,臓器を手にとって観察することもできるが,これとても決して完全ではない.博物館などで病理標本を保存するためには部屋の空調装置,固定液のpHの調整,標本の色調の保持のための工夫など問題点は数多くある.このような仕事は片手間にできることではない.病理の技術者の中にはこれを専門とする人が必要になってきている.これを行うためには自らも剖検の介助に参画して,臓器を傷つけることなく取り出すことからはじまって,固定液の調整などにも注意してこそ,きれいに臓器が保存できる.教育用の標本では病変をみやすくすることは重要だが,それには芸術的配慮も必要であろう.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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