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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術9巻5号

1981年05月発行

雑誌目次

病気のはなし

猩紅熱

著者: 南谷幹夫

ページ範囲:P.382 - P.387

 猩紅熱はA群溶血性レンサ球菌(以下溶レン菌と略す)を病原とする急性発疹性感染症である.主として小児が罹患する疾患で,秋より冬にかけて多数の患者が発生し,夏には滅少する.本症は法定伝染病の一つであるが,他の法定伝染病は近年著しく減少しているにもかかわらず,猩紅熱だけは毎年冬になると,流行を繰り返している.
 本症は飛沫により感染し,主症状は発熱,扁桃炎,特有の発疹及び落屑を三主要症状とし,そのほか苺舌,口角炎,口囲蒼白などが特徴的症状とされる.検査所見では咽頭培養によるA群溶レン菌の検出,白血球数増加,好酸球増多,回復期におけるASO価上昇,抗ストレプトキナーゼ価(ASK)上昇,抗ヒアルロニダーゼ価(AH)上昇などが認められる疾患である.また続発症として急性腎炎,関節炎,リウマチ熱を来すことがある.

技術講座 生化学

血清電解質測定の標準法(NBS)

著者: 小林一二美

ページ範囲:P.405 - P.408

 "臨床化学分析における標準法"という日本語に対する統一見解は,まだ明らかにされていない.米国通商産業局のNational Bureau of Standards(NBS)は各種の標準物質を分けてもらえることで我が国に知られているが,1973年以来,血清電解質の測定法の検討を国際的規模で行い"reference method"として発表した.本文の目的はその紹介である.
 この"reference method"を標準法と訳してよいか悪いかは分からないので,今後の意見に従がうつもりである.またこのNBSのreferencemethodはNCCLS(National Committee for Laboratory Standard)の定義(案)に従うとreferencemethod class Aに相当するもので,日常検査における比較対照のよりどころとして十分役立つものと考えられる.その理由は,使用機器の種類を問わないこと,ガラス器具,標準物質などの消耗品を指定どおりに用い,操作はやや面倒であるが,これも指示どおりに行えば,どこの検査室でも実行可能だという点にある.

生理

ポータブル脳波検査法

著者: 桑山美知子

ページ範囲:P.409 - P.414

 出張脳波検査(通称ポータブル脳波検査)は病状の重い患者や術中の患者を対象とすることが多く,脳波検査室と異なった環境,すなわち病室や手術室で行うので,この点を十分考慮して検査に臨まなければならない.例えば病室では,レスピレーター,心電図モニター,酸素テント,電気毛布など,種々の電気機器を使用している場合があり,それだけ外部雑音や交流障害による雑音が脳波記録に混入しやすくなる.最近は脳波計の精度が向上し,以前より記録がしやすくなったとはいえ,前述したように種々の医用電気機器の普及に伴いそれだけ交流障害の原因も増加している.このようにポータブル脳波検査は外部雑音の少ない検査室での検査と状況が大きく異なっているので,検査室と同程度の質の脳波記録を行うためには,それだけ検査前の外部環境の整備や電極の接着,記録に関する方法のすべてについて深い配慮が必要である.以下その手順にそって述べる.

一般

ガスリーテスト

著者: 大浦敏明

ページ範囲:P.415 - P.419

 定義
 1961年米国のガスリー(Guthrie)博士は,フェニルケトン尿症のマススクリーニング法として画期的な方法を開発した.検体としては厚手の吸水性の良い濾紙に血液を染み込ませ,乾燥させたもの(血液濾紙)を用い,検査法としては細菌抑制検査(bacterial inhibition assay;BIA法)を実用化した.この方法は多くの利点があり,それ以前の尿検査に代わって,短時日の間に全世界に普及した.今日ガスリーテストと称する場合はBIA法を指すが,その後同じ血液濾紙を用いて酵素検査(ボイトラー法,α1アンチトリプシン,アルギナーゼなど),ホルモン検査(T4,TSH),電気泳動法(異常ヘモグロビンなど),免疫反応(トキソプラズマ抗体)など多種多様のマススクリーニングが可能となり,これらを含めてガスリーテストと呼ぶことがある.本稿では狭義のガスリーテストとしてBIA法に限定する.

検査法の基礎理論 なぜこうなるの?

NBT還元能

著者: 朝長万左男

ページ範囲:P.388 - P.394

 Nitroblue tetrazolium(NBT)は人工色素であり,極めて強い水素(電子)受容体として働く.その水溶液は黄色透明であるが,水素と結合(還元)すると難溶性青紫色のホルマザン(formazan)に変化する.したがってホルマザンの生成量を測定することによって,その反応系の酸化還元量を知ることができる.また組織化学的方法によれば光顕的にホルマザンの沈着部位を観察できる.このNBT還元反応は乳酸脱水素酵素(LDH)などの酸化還元酵素の活性の生化学的測定や,組織化学的証明に広く使われている.本稿の課題であるNBT還元能は,末梢血中の成熟好中球の貪食時に生じてくるホルマザンの生成の意味である.貪食好中球がNBTを還元する生化学的機構の理解と,好中球機能検査法のひとつとして使われるNBT還元試験の臨床病理学的意義の大筋を捕らえていただくことの二つを主な目的として,以下の解説を試みることにする.

混濁血清と血液検査

著者: 浅川英男

ページ範囲:P.395 - P.398

 血清検査を行うとき,被験血清の混濁したものが血清検査室に搬入されることがしばしばあり,そのような被験血清を用いて正しい結果が得られるか否かについて判断に苦しむことがある.しかし混濁にもいろいろの種類があって,それぞれ混濁の生ずる理由によって検査結果に影響が生ずる.そこで混濁の内容について述べ,その発生原因,混濁血清を用いることによって生ずる検査データへの影響と対策について述べてみたい.

抗微生物剤の分類

著者: 菅野治重 ,   小林章男

ページ範囲:P.399 - P.404

 病原微生物に対し殺菌または静菌作用を持つ物質を抗微生物剤(antimicrobial agents)と言い,特に生物(放線菌や真菌類)が産生する抗菌剤を抗生物質と呼び,合成抗菌剤と区別している.
 抗微生物剤が本格的に開発されたのは20世紀に入ってからで,1904年Ehrichによる原虫疾患に有効なトリパンレッドの発見に始まる.以後合成抗菌剤はサルバルサン,サルファ剤が開発され,またFlemingによりペニシリンが発見され,抗生物質が登場してくる.抗生物質はその後急速に研究開発され,現在では細菌感染症の主要な治療薬として広範に使用され,著しい効果をあげている.しかし最近では抗生物質の種類が激増し,新薬も次々と関発され,使用する臨床上でも混乱が生じている.本稿では最近の化学療法剤について作用機作より整理するとともに,適応菌種についてまとめてみた.

知っておきたい検査機器

ベクトル心電計

著者: 森博愛 ,   中屋豊 ,   寿満裕司 ,   高橋学 ,   安宅芳夫

ページ範囲:P.420 - P.423

 1.ベクトル心電図とは1)
 ベクトル心電図法とは,1936年ドイツのSchellongにより初めて臨床に導入された方法で,心起電力の変化を立体的に表現するために考案された.心臓は立体的な構造物であるから,その興奮により作られる電気変化も当然立体的に変動する.
 一般に,大きさのみを持つ力学的な量をスカラーといい,大きさと方向を持つ力学的量をベクトルという.通常の心電図は,振幅の経時変化の記録であり,大きさのみを持っているからスカラー心電図と呼ばれる.これに対し,ベクトル心電図では,大きさと方向が表現されている.

マスターしよう基本操作

細菌検査室で用いられる滅菌法

著者: 山中喜代治

ページ範囲:P.425 - P.432

 滅菌とは,物体に付着しているすべての微生物を滅殺するか,または完全に除去することを言う,細菌を取り扱う際の滅菌操作には白金耳,白金線の火炎滅菌があり,作業の前後には必ずこの操作が行われる.飽和蒸気または熱風による滅菌では,各種の培地類やピペット,試験管などのガラス器具そして使用済みの培地や検査材料といったものが,被滅菌物として挙げられる.これらの被滅菌物に対してはその種類に応じた滅菌法を選択し,滅菌作業を行う必要がある.一方滅菌器の原理,構造,使用方法についても熟知していなければならない.ここでは日常の細菌検査業務で頻繁に用いられている火炎滅菌,乾熱滅菌,高圧蒸気滅菌及び濾過滅菌について作業時の注意点を述べ,操作手順を解説する.

検査を築いた人びと

臨床検査法の基礎を築いた人 パウル・エールリッヒ

著者: 酒井シヅ

ページ範囲:P.433 - P.433

 診断に化学検査を用いるようになったのは前世紀の後半であるが,その先駆者として名を挙げねばならぬのがパウル・エールリッヒである.
 しかしエールリッヒは梅毒の特効薬サルバルサンの発見者として,また免疫学の基礎的研究を行い,側鎖説を立てた人として余りにも有名である.そのため臨床検査法の開拓者として,あるいは白血球の核染色法を始めた人としての業績は,前者に比べて影が薄い.だが,現代の血液病学ではいまも彼の白血球核分類法が土台になっており,臨床検査の分野でもエールリッヒの創始したいくつかの方法が役に立っている.

自慢の職場

自治医科大学付属病院臨床病理部

著者: 岩田弘

ページ範囲:P.434 - P.435

 1974年4月に開院した自治医科大学付属病院は,開院以来7年が経過しようやく伝統ある他の私立大学病院の規模に追いつきつつある.今後は質的向上を計らねばならない時期に至っている.臨床病理部では全体の検査精度を高める一つの方策として,検体検査部門のシステム化を進めてきた.特に検査以前の精度管理である事務的作業で起こる単純な間違いを,いかに防ぐかを基本として構築した,そのためには,完全な患者IDの導入が必要であることから,私どもは日本システムハウスと共同で約4年間の開発期間をかけ,完全な患者IDを中心とした個人識別総合臨床検査システム(Personal ID Clinical Laboratory System;PICLS)を完成した.1979年4月より本稼動を開始,既に2年間順調な稼動を続けているので,このPICLSについて紹介する.

私の学校

群馬県医師会立臨床検査専門学院—定時制といえども

著者: 金井克子

ページ範囲:P.436 - P.436

 私達の学校は,"緑と水の街"をキャッチフレーズにする,前橋市の官庁街より北へ少し外れた所にあります.全館5階建てで,屋上からは雄々とそびえる上毛三山や,脈々と流れる利根川を一望することが出来,都心の学生には想像もつかないほど風光明媚な学校です.昭和44年に,衛生検査技師の県内充足を目途として,群馬県医師会の諸先生方の手で,勤労者を対象とした定時制学校として開校され,以来今日まで,定時制の臨床検査技師養成学校として,12年の歴史を歩んで来ました.
 私たちは,"昼間は,県内の医療機関で働く"と言う条件で受験が許され入学とともに,昼間はパラメディカルスタッフで,夜間は学生としての日々が始まります."昼間働き,夜学ぶ"と言うことは,想像以上に大変なことですが,職業と学校とが直接結びついているため,学校で学んだことがすぐ職場で役立ったり,職場で出くわした問題や疑問が,講義中に解決されるなどの利点もあります.また,休憩時間中には,職場での出来事や検査法について,口々に討論が行われるなどの光景がみられ,学生である前にパラメディカルスタッフであることの意識が強いことを示していると思います.しかし,私たち学生の熱意はともあれ,現在この種の養成学校は,定時制のみとして存在するのは少なく,医学の急速な進歩に伴って知識の高度化が叫ばれる中で,十分な講義や実習が行えるのであろうか……と,疑問を持たれるのではないかと思いますが,我が校独自の方法で,十分な教育を得ています,実習のあり方に特長があり,校内実習のほかに,2〜3人のグループで各施設での実習も行われ,日ごろ職場では体験できないことを体験し,学校で学んだことの理解を深めるのにたいへん役立っています.また年に十数回行われる僻地診療にも積極的に参加し,ここでも患者・医師をはじめ医療従事者と直接接することにより,パラメディカルスタッフとしての意識の高揚が計られています.

最近の検査技術

赤血球可変形能と赤血球濾過試験—正常と病的赤血球における意義

著者: 八幡義人

ページ範囲:P.437 - P.440

 ヒト赤血球1)は生理的には120日の寿命を有し,最終的には脾において崩壊・溶血に至る.この正常赤血球の老化過程や,ある種の病態(例えば赤血球の代謝異常症)では,赤血球に内在する代謝系の破綻によって(血球内因子),早期崩壊を示す.しかし,赤血球自体には原因となる代謝障害は本質的には認められなくても,血漿内に存在する病的諸因子(血球外因子,例えば血漿脂質の異常,自己抗体の存在,補体の作用,病理組織学的な血管性病変など)によって,いずれは溶血に至ることがある2).いずれの場合も,赤血球の崩壊をつかさどる臓器は,主として脾と考えられている.
 脾による溶血の機序は,脾の独特な解剖学的・病理組織学的因子,生化学的因子,更に現在はまだ詳細は不明ではあるが,免疫学的因子などが関与していると推定される.

おかしな検査データ

ZTT,TTT異常高値のM蛋白血症

著者: 片山善章 ,   越智正昭

ページ範囲:P.441 - P.444

 愛媛大学病院中央検査部の臨床化学検査種目は,臨床化学検査I,II,III,尿化学検査,内分泌検査,胃液検査に分類されており,これらの検査種目のそれぞれの項目を合計すると約60項目になる.そして更に臨床化学検査を主体とする緊急検査20項目が加わる.
 一方,人員配置としては臨床化学部門に6名が配属されており,これらの検査項目を分割担当している.検査の実施方法は腎機能,肝機能,脂質,肝機能酵素などと機能別に分けて,約85%が多項目同時測定の自動分析装置で測定されているが,尿糖,尿蛋白,ZTT,TTT,血糖,血清蛋白分画などは専用測定器や用手法で実施している.したがって,分割担当しているそれぞれの検査成績を担当者が報告書に記載していって初めて,各検査成績相互の関連性が一目で確認できることになる.すなわち報告書を最終的に総合チェックする者が,総合的に異常データのチェックを行うことができ,担当者は自分の担当項目のみのチェックしかできないのが実状である.

読んでみませんか英文雑誌

血液学の話題—血液学の問題点

著者: 森三樹雄 ,  

ページ範囲:P.445 - P.447

 1972年に61歳の白人女性が肺炎のため入院し,貧血もあることが分かった.当時,患者の貧血は貧しい食生活によるものと思われ,鉄補充の治療を受けた.
 1975年に肺炎で再入院した.患者の血算(CBC)は下記のごとくであった.

トピックス

膵臓特異抗体を用いる膵疾患の診断

著者: 中山年正

ページ範囲:P.440 - P.440

 膵臓の病気は我が国でも年々増加の傾向にあり,アルコールやコーヒーの摂取,高脂肪食などの食生活との関連が考えられている.代表的な疾患は激烈な痛み(狂躁痛などと言う)を伴って発症する急性膵炎であるが,膵線維症,膵石灰化などの慢性膵炎では鈍痛,背部痛,消化不良など症状が非特異的であり,膵癌では黄疸によって発見される例もあるが,多くは進展するまで気付かれない.超音波,X線などの形態学的検査やPSテスト(パンクレオザイミン・セクレチンテスト)などの内視鏡的機能試験も有用であるが,検査の性質上,上記のような非特異的症状の患者のすべてに実施するわけにはいかない.
 血中に遊出する膵外分泌酵素やその阻害剤(アミラーゼ,リパーゼ,トリプシン,DNaseI,RNase,トリプシンインヒビター)が従来から検討され,膵アミラーゼ,膵リパーゼの有用性はほぼ確立しているが,膵アミラーゼのみを迅速に分析する技術は十分に確立されたとは言えず,また,アミラーゼ・リパーゼともに生体内寿命(クリアランス)が早く,急性膵炎でも発症の2〜4日,慢性膵炎では線維症のように進行するとかえって低値となり診断の価値が下がる.RNaseは膵癌のマーカーとして最近注目されているものであるが,分子量が小さく腎機能の影響を強く受け,また測定方法に問題があり日常検査に至っていない.

コーヒーブレイク

キャンディ煙草

著者:

ページ範囲:P.398 - P.398

 子どもの喫煙は,医師にとってたいへん気になる問題である.医学関係者の禁煙運動にもかかわらず,子どもの喫煙は増大している.そして,医学は子どもの喫煙を助長するようないくつかの問題を見落としているとDr. Alam Blunは,今年のNewEngland Journal of Medicineに次のように述べている.
 彼の英国の友人は,店頭でキャンディ煙草が売られ,両親や大人から子どもに与えられる点を指摘した.米国では,ペンシルバニヤの風船ガム会社が,よく知られているキャメル,ラッキーストライク,マルボロ,ペルメル,セイレム,バイスロイ,ウインストンなどの煙草と全く同じ外観の包装をした風船ガムシガレットを売っており,Howard B殿粉会社は,種々の煙草とよく似たパッケージにつめて,砂糖と唐もろこし殿粉でつくったキャンディシガレットを売っており,これらの製品は,空港,薬局,スーパマーケットで,本物の煙草と並んで飾られている.そして,子どもたちは,この糖分のかたまりを煙草のように吸っている.そして,ある青年がウインストンやセイレムを製造しているReynold煙草会社への質問状に対し,会社側は,私どもの会社は若い人の喫煙は認めていませんと書いているが,それが本当なら,その煙草の商標侵害について,何ら処置をしていないということは偽善そのものだ,と煙草会社をきめつけている.

Kamishibai

著者:

ページ範囲:P.444 - P.444

 "Kamishibaiは,江戸時代の終わりあるいは明治の初めごろに,日本で発明され,使われている持ち運び可能な木製の劇場である.現在の形式は約50年前のものである.紙芝居はカードや紙にかかれた絵を使って,15〜20名のお客の前で,人気のある話をする道具である."
 これは1980年10月発行のWHOクロニクルにイタリアの保健学者が述べている紙芝居と題する小文の初めの小節である.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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