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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科26巻8号

1971年08月発行

雑誌目次

特集 今日の外傷—外傷患者の初診と初療 EDITORIAL

明日の外傷治療への指針

著者: 斉藤淏

ページ範囲:P.1171 - P.1172

 交通事故による外傷は多い.1970年代の救急治療を代表するものである.その内容は複雑であり多くの重症を含んでいる.しかし生命を失う者も後遺症に悩む者も著しく少なくなりつつあることは事実である.そこで今日の外傷に,昼夜の別なく身をもつて取り組んでいる外科医の経験を伺い,明日の治療への示唆を求めて本特集は企画された.いま通読するに,斬新な診療の現況が到る処で明示されているのみならず,明日の治療に対しても力強い助言が与えられている.いずれも辛酸をなめ尽し,体験を基になされた尊い論著である.心に残る記録のなかから,主として初療をめぐる2,3を取りあげながら,感慨をまとめてみたい.
 すべての救急担当医は,慎重・迅速・積極・的確・確実などを自覚し,きびしく自縛している現実が痛いほどに感じられる."Wait and Seeの許されない"(和田寿郎),とくに"初療は最終結果と直接結びついている"(諸橋政樻)ということがあらためて強く印象づけられた.

Ⅰ.初診時における受傷部位のチェックと全身管理

外国病院・外傷センターにおける全身チェック方式と患者管理システム

著者: 隅田幸男

ページ範囲:P.1173 - P.1177

はじめに
 救急外傷患者の全身チェック方式と患者管理システムについてアメリカの施設を参考に述べてみよう.このような方式とシステムの確立が必要な理由は,結果的には治療成績を向上させるためであることにはちがいないが,単に患者の生命を護るというだけではなく,緊急であるが故に時として初療(first aid)を中心として生じるつまらぬ禍いを予防することにもなるからである.
 どのような患者でも,医師あるいは病院が受付けた以上は,医療行為に対する委任契約1)が成立したことになり,あらゆる様式の記載は契約書となり,公文書となり,証拠書類となるので重大な意義を持つてくるのである.

外傷患者の初期全身管理と麻酔

著者: 恩地裕

ページ範囲:P.1191 - P.1197

はじめに
 大阪大学医学部附属病院特殊救急部において第一線救急病院から転送されてくる重度外傷患者を取扱つてきたが,この経験を通じて,われわれが現在行なつていることを,その順序にしたがつて次にのべる.

外傷性ショックとその対策

著者: 玉熊正悦 ,   石山賢 ,   菅原克彦

ページ範囲:P.1198 - P.1206

はじめに
 外傷性ショックとは,外傷を契機として突発的に出現する持続的な末梢循環不全の状態であり,これに最も普遍的な役割を演じるものは出血,創傷,ならびに外傷という非特異的な侵襲に対する生体反応である1).しかしショックをもたらした直接の原因が何であつても,一旦ショックという臨床症状が発現するとその後微小循環系に進展する生理,生化学的な変化やこれに対する治療法はかなり類似しているため,今日欧米では外科領域で遭遇する殆んどすべてのショックを"trau-matic shock"の名で総括する人も少なくない1).このような見解は,いわゆるrefractory shockの病態を一元的に把握しようとするショック研究の最近の趨勢からも理解されるが,本稿ではわが国の従来からの習慣に従い,外傷性ショックを狭義に解して直接機械的な外力によつて誘発されたショックだけに限定し,教室の経験例を中心にとりあげる.
 現場から緊急に運搬された重症外傷患者の治療は,まず呼吸と循環に関するvital signの確認から始まる2-6).即ち気道と静脈輸液路を確保して,後に詳しく述べるacute resuscitative treat mentを,寸時のおくれもなく開始せねばならない2-6)

Ⅱ.頭部外傷

頭部外傷の診断と治療方針のたて方

著者: 西村謙一

ページ範囲:P.1211 - P.1217

I.はじめに
 頭部外傷患者の診断と治療は,まず,外傷患者の診断と治療に始まる.その理由は,いうまでもなく,最初から頭部外傷と判明している場合は,2次的に転送されてくる場合のほかは非常に少ないからである.
 また,すべての外傷患者に必要な最初の救急処置が頭部外傷の治療そのものである点からも,頭部外傷の診断,治療について論ずるならば,運び込まれた外傷患者の診断,治療から論じなければならない.

頭部外傷治療法の変遷

著者: 都留美都雄

ページ範囲:P.1221 - P.1228

はじめに
 頭部外傷は,人間の歴史とともに始まつたと考える事ができる.種々の野獣との斗争はもとより,人間同志の争いにおいても頭部外傷は経験されたであろうし,また地震や暴風雨その他の天災地災によつて経験されたものと考えられる.
 そのように,頭部外傷が旧くから経験された人間に対する試練の1つでであつた証拠として,欧州やアメリカ大陸あるいは大平洋の諸島の処々において,新石器時代の人骨の中に,骨折のある頭蓋骨や,骨折の有無にかかわらずに種々の形状の穿頭術の行なわれて頭蓋骨が発見されている.南米ペルーのインカ族において西歴紀元前3000年頃に,頭蓋骨の穿孔術の行なわれた事は,特に有名で,この穿孔術が何らかの治療の目的で用いられたことも認められている.Brocaによるとこれらの穿頭術は主として"痙攣"の治療の目的で行なわれたものと考えられているが,その他は悪魔を除く等の祈祷的な目的のものもあつたと考えられている.

Ⅲ.顔面外傷

新鮮顔面外傷の救急処置と治療方針

著者: 藤野豊美

ページ範囲:P.1229 - P.1234

 われわれの形成外科外来をおとずれる患者の最近の傾向をみると,外傷とくに交通事故によつて顔面に受傷した例が非常に増加している.これらの患者は直接診療された第一線の医師による紹介も少なくないが,患者自身が「顔のことだから,できるだけ早く,より良く治療したい」との理由で来院する場合が多くなつている.前者は「餅は餅屋にまかせる」という専門分野は尊重していただいているあらわれで,これはまことに民主的な考えで,われわれ形成外科医は関連科の先生方に深謝している次第である.後者は我田引水的であるが形成外科医が多少でも社会に役立つ仕事をしていることが徐々に理解していただいているものと思われる.
 一般外科医は現在,脳外科領域を除けば頸部,胸部,腹部が主力であろう.四肢は整形外科が主力であろう.課題となつている顔面は眼科,耳鼻科,口腔外科に細分されたためか,従来の教科書では頭頸部外科とはいうが顔面外科とは呼称されていない.実際に一般外科にいる友人に聞いてみると顔面はある程度領域外という感じがするという.しかし今日のような交通戦争下では眼科,耳鼻科,口腔外科の3科全域におよぶ顔面外傷が多発している.形成外科では各3科では取り残され診療対象となつていない領域を統合し,これを顔面外科として主力をそそいでいる.

鼻の外傷の救急処置と治療方針のたて方

著者: 岡本途也

ページ範囲:P.1235 - P.1241

まえがき
 鼻は顔面の中央に突出しているため,打撲,転倒,衝突などでしばしば損傷される.ところが,鼻は顔貌の主要なポイントであるため,これが変形すると醜貌となり,被災者は非常に精神的な打撃をうける.生命をとりとめたのだから贅沢はいうなといつても,事故の日より日数がたつにしたがつて被災者の悩みは深くなる.故に損傷された鼻はできるだけ原型に復すべきである.受傷後早期であれば,ほとんど労せずして鼻骨骨折も整復できるが時期を失するとその治療は困難となる.故に交通災害ななどの救急患者を最初にてがけられる外科医は顔面外傷患者を診られる期会が多いので,その治療に万全を期せられたい.

Ⅳ.胸部外傷

肺肋膜損傷の診断と治療方針

著者: 鈴木一郎

ページ範囲:P.1243 - P.1248

はじめに
 肺肋膜損傷は,胸部損傷の中でももつとも特徴のある損傷であるのは肺肋膜(胸壁)の解剖学的,生理学的理由による.胸郭を形成する肋骨は,長く細く,容易に破損する.胸郭に外傷が加わるとまずdamageをうける運命にあるのが,この弱く,しかも広い容積をもつた胸郭肋膜および肺であることは説明するまでもない。すなわち鈍性,鋭性いずれでも外力が加わると,肋骨胸郭の破損とそれに伴う肋膜および肺の損傷がおこり,胸郭の破損の軽微な場合でも,胸壁を貫いた鋭性外力は肋膜肺を損傷する.このように胸壁あるいは肋膜,肺の損傷がおこると必然的に肺の換気機能不全が出現し,それを速やかに処理しないと呼吸困難のために受傷者の生命は危険にさらされる.また肺肋膜損傷は,その解剖学的理由から,容易に大出血をおこすことも特徴的で,とくに胸腔内出血は,その頻度と出血の程度が想像を絶することが多く,これによるshockと血腫による肺および心臓大血管の圧迫のため重大な事態がおこりやすい.したがつて肺肋膜損傷の際に出現する肺肋膜周辺の異常な生理学的変化を,速やかにかつ正確に判断し,その状態から直線的に脱出させるため迅速適切な処置を実施することは,胸部損傷の救急処置の基本である.

心臓・大血管損傷の診断と治療方針

著者: 麻田栄 ,   岡田昌義

ページ範囲:P.1249 - P.1256

はじめに
 戦後26年目を迎えた今日,社会の近代化ならびにスピード化が進むにつれ,戦傷といれかわつて,交通事故をはじめ災害および傷害事件が急激に増加している.胸部外傷の発生頻度は,本邦ではまだ5〜10%と低いが,欧米のそれは30〜40%1)と高く,わが国でも早晩このような情勢になるものと推測される.胸部外傷の中では,胸壁損傷がもつとも多く,次は肺・気管支損傷で,心臓・大血管損傷は第3番目に位しているが,生命の予後と直接関係が深いので,その処置は,迅速かつ確実であることが強く要求される.ここに,少数例ではあるが,著者らの心臓・大血管損傷の経験を紹介するとともに,内外の知見について述べ,本症の診断と治療のための御参考に供したいと思う.

最近の興味ある胸部外傷症例

丸太材による胸部貫通創

著者: 木下博

ページ範囲:P.1257 - P.1259

 患者は19歳男,端午の節句,5月5日の早朝,ダンプカーを運転中,居眠りして,路傍の農家の庭にとび込んだ.ちようど,そこに横に立てかけてあつた鯉のぼりの丸太竿の尖端が車のフロントガラスを突き破り,ハンドルをくぐりぬけて,運転席の患者の右胸部を貫通して車は止つた.
 医師が現場に駆けつけた時,(第2図)のように,患者は丸太に串刺しになつたまま運転台で宙づりになつて意識を失つていた.脈拍は微弱であるが,外部に出血は全然なく,また,突き貫けた丸太の尖端には血痕さえ付着していない.

心臓,胸部大動脈,肺動脈貫通銃創にて救命しえた1例

著者: 星野喜久 ,   奈良圭司 ,   新井健之 ,   村上勝 ,   井上彬 ,   大島啓路 ,   三笠元彦

ページ範囲:P.1261 - P.1264

 外傷者患に対する救命手術の中でもつとも緊急を要するものは心臓,大血管の損傷に対する手術であると思う.このような症例の報告は過去にも多数見られるが,著者は心臓と胸部大動脈の貫通銃創で受傷後20分で,死亡直前に手術を行ない,救命し得たきわめてまれな好機に恵まれたので報告する.

Ⅴ.腹部外傷

腹部外傷の診断と手術方法

著者: 星野喜久 ,   北島政樹 ,   高梨利次

ページ範囲:P.1265 - P.1270

はじめに
 最近交通外傷その他災害外傷が増加し,外科臨床にたずさわつている人で,腹部外傷に遭遇しない医師は1人もいないのではないかと思う.しかしその初診時に適確に診断することは非常に困難で,多くの経験を有している外科医でもなおその治療方針の決定に迷うことがあると思う.特に腹部の非開放性損傷にこの傾向が強いので,今回著者の経験した非開放性損傷について述べ,診断および治療方針について概説を試みたい.

肝破裂の診断と手術方法

著者: 内野純一

ページ範囲:P.1271 - P.1280

はじめに
 肝外傷は腹部臓器損傷の約20%28)をしめるにすぎないが,肝の局所解剖学的ならびに臓器の特質上その処置には他の臓器とはことなつた多くの問題がある.
 最近,交通災害の増加にともなつて本症は急激に増加する傾向にあるが,早期診断の困難性,損傷の重症性,手術手技の特殊性などからその治療成績は改善されたとはいえ,必ずしも満足すべきものではなく,依然として死亡率は高い.

膵損傷の診断と手術方法—自験例を中心として

著者: 佐藤寿雄 ,   斉藤洋一 ,   松野正紀 ,   芳賀紀夫

ページ範囲:P.1281 - P.1287

はじめに
 膵臓は解剖学的に後腹膜腔にあつて諸臓器に被われているため,膵損傷の頻度は比較的少なく,一般に腹部外傷の1〜3%といわれている1).しかし,膵損傷の際には他臓器の合併損傷を伴うことも多いため,その死亡率は高く,また診断や治療面でも困難を伴うことが少なくない.近年,交通事故や産業事故の増加と相まつて,膵損傷も増加しており,比較的救急患者の少ない著者らの大学病院においても過去10年間に10例の膵損傷を経験している.今回はこれらの自験例を中心として,本症における問題点の2,3について言及してみたい.

消化管破裂の診断と手術方法

著者: 村田勇 ,   広野禎介

ページ範囲:P.1289 - P.1296

はじめに
 近年における交通機関の進歩発展は目覚ましく,自動車の普及とともに,交通量も日々増加の一途をたどつているが,これにともない,交通災害もまた年々激増している.とくに,最近では,各種臓器の合併損傷を伴つたきわめて重篤なる外傷例がふえてきており,社会的にも,かかる傷害に対する根本的な対策の必要性が切望されてきている.
 腹部外傷についても例外ではなく,かかる状況を反映して,年々増加の傾向を示している.われわれも,最近10年間に133例の腹部外傷手術例を経験しているが,ここ2〜3年における腹部外傷の急増はおどろくべきものがあり,昨年1年間だけで,23例の症例を経験した.これら腹部外傷自験例の性別頻度は,男子115例,女子18例と,男子に圧倒的に多く,また,年齢別では,20歳台に最も多く31例,次いで,30歳台,10歳台の順で,青年層に多くみられた.しかし,最近の交通外傷の増加に伴い,小児の発生頻度が高くなつてきていることは注目すべきである(第1図).腹部外傷の発生原因をみるに,交通外傷がもつとも多く61例で,45.8%を占め,次いで,労働災害39例,転落事故14例,暴力によるもの11例,スポーツ中の事故5例となつている(第2図).

最近の興味ある腹部外傷症例

膵頭十二指腸切除により救命し得た重症膵損傷の1例

著者: 斉藤敏明 ,   比企能樹 ,   重城明男 ,   横山勲 ,   中島竜夫 ,   花上仁 ,   古屋正人

ページ範囲:P.1297 - P.1303

はじめに
 膵損傷は比較的稀である.その理由は,膵は体内深く,後腹膜腔にあり,周囲より保護された場所にあるためで,腹部外傷における膵損傷の頻度は1〜4%を占めるに過ぎないといわれている1)2)
 膵外傷は1827年Traversが剖検にての報告に始まり,1903年Mikuliczは45例の膵外傷の検討の結果,重症膵損傷に対する救命の方法は手術以外にないと示唆している.そして,1905年Garréが完全膵断裂を縫合により治癒せしめ,最初の生存例を報告して以来,膵外傷に対して積極的に手術が行なわれるようになつた1).しかし,膵は強力な酵素産生臓器の故にその成績は悪く,死亡率は10〜32.5%とかなりの高率を示している1)3-6)

潜在性疾患と外傷—門脈圧亢進症を伴つていた脾刺創の1例

著者: 大井竜司 ,   佐野進 ,   芳賀昭 ,   黄振地 ,   佐々木久雄

ページ範囲:P.1305 - P.1310

はじめに
 外傷は交通外傷をはじめとし,ますます増加の一途をたどり,損傷が複雑化するとともに,その診断および重症度判断は必ずしも容易ではない.とくに最近話題になつているsilent disease(潜在性疾患)が,損傷臓器の基礎疾患として存在する場合,受傷外力と臓器損傷程度との間に思わぬへだたりがあること,いいかえれば,"minor trauma with major injury"があることに注意しなければならない.われわれは最近silent diseaseとして肝硬変症および陳旧性十二指腸潰瘍が存在し,門脈圧亢進症のために腫大した脾に刺創をうけた症例を経験したので,外傷初診時の注意を喚起する意味において若干の考察を加えて報告する.

特異なる経過をたどつた胃穿孔を伴える外傷性横隔膜ヘルニヤの1例

著者: 西島洋司 ,   菅谷彪 ,   梅津武美 ,   渡辺登志男 ,   渋谷一誠

ページ範囲:P.1311 - P.1314

緒言
 われわれは外傷直後に肋骨骨折を認めたのみで経過しながら,第12病日の高圧浣腸施行時の腹圧上昇を契機として急激な全身症状の悪化をもたらした胃穿孔を伴える外傷性横隔膜ヘルニヤの1症例を経験したので報告する.

脾破裂により血胸となつた外傷性横隔膜ヘルニアの1例

著者: 熊谷義也 ,   保坂陽一 ,   熊谷直俊

ページ範囲:P.1315 - P.1318

はじめに
 われわれは,交通事故によつて,全身打撲をうけ,脾破裂によつて血胸となつたと考えられる外傷性横隔膜ヘルニアの1例を経験したので報告する.

Ⅵ.骨盤損傷と尿路損傷

骨盤骨折の診断と治療

著者: 真喜屋実祐 ,   小田武雄 ,   杉本侃

ページ範囲:P.1321 - P.1328

 従来,骨盤骨折は外傷のなかでも比較的まれなものとされ,骨折自体も単純で合併損傷の少ない軽症のものが大部分であつた.しかるに近年産業の発達,それに必然的に伴う運搬手段の高速化,大型化により本外傷も確実に増加しつつあり,かつ頭部外傷,胸部外傷,腹部外傷その他の外傷を合併した多発損傷の型を呈した重症のものが多くなつた.したがつて今日の骨盤骨折のなかには,診断,治療の面で従来の考え方では律しきれない問題をかかえたものが多い.大量出血に基づく,ショック等の循環機能不全,胸部外傷を合併した場合の呼吸器機能障害,重症骨盤骨折に伴う骨盤臓器の損傷に対する処置等がそれである,以下主としてこれらの問題について昭和45年1月—昭和46年4月までの,1年4ヵ月間に当科で扱つた17名の骨盤骨折患者の観察結果を中心に述べていきたい.
 年齢は0歳〜70歳(平均36歳)で男子(13例)は女子(4例)の約3倍である.原因は自動車事故によるものが最も多く11例,次いで重量物の下敷きになつたものまたは,はさまれたもの5例で残りの1例は転落によるものである.死亡は3例で死亡率は17%である.

外傷性血尿の診断と治療方針—とくに骨盤骨折との関連において

著者: 斉藤武志 ,   斉藤克之 ,   柴拓 ,   上野竜夫 ,   末永文一 ,   佐藤良祐 ,   宗像富士夫

ページ範囲:P.1329 - P.1336

 最近,自動車事故の増加により骨盤骨折に併発した尿路損傷が増加しているが,全身麻酔,抗生物質の発達により積極的,合理的な治療が行なわれ,死亡率は減少している.しかし合併症としてCrush Syndrome,さらに術後の尿道狭窄,神経因性膀胱,インポテンツなど難治性の後遺症が患者を悩ませている.
 私も過去5年間に10例(第1,2表)の本症を経験しているので,それらの治療経過について,2,3の特徴的な点について述べる.

Ⅶ.脊髓の外傷

新鮮頸髄損傷の診断と治療方針

著者: 石川芳光

ページ範囲:P.1337 - P.1343

はじめに
 筆者が千葉労災院の新設とともに赴任して以来6年余を経過したが,その間頸髄損傷患者に対する前方直達手術施行症例は40数例に達し,そのうち受傷後7日以内に施行したいわゆる早期手術症例は15例である.手術症例のうち,術中はもちろん,術後も死亡例はまだ1例もなく,なかには著明な脊髄症状の改善を認める症例も少なくなく,社会復帰を果している患者も多きを数える.以下症例の説明,治療方針,早期手術の要点およびその意義について述べるが大方の御参考に供することができれば誠に幸いである.

Ⅷ.血管の外傷

血管外傷の治療方針について

著者: 田代豊一

ページ範囲:P.1345 - P.1350

はじめに
 血管外傷のうちもつとも難しいのは大静脈損傷であり,そのほとんどが手術に至らずして死亡している.緊急手術を行なつても大静脈の損傷部位の確認は困難なことが多く,止血に至らず死亡する例も少なくありません.それに引替え,大動脈損傷は早期に適切な処置が行なえれば救命することができます.
 四肢血管損傷の多くは動脈,静脈ともに切断されていることが多く,早期に動・静脈の再建を行なえば四肢の壊死をまぬがれる例が少なくありません.

大静脈の損傷による出血とその対策

著者: 和田寿郎 ,   光岡洋

ページ範囲:P.1351 - P.1355

緒言
 近年飛躍的に増加せる交通外傷や,増大せる社会不安を反映する弾創,刺傷,その他種々の原因により数多くの犠牲者が生じている.しかしながら近代外傷外科学の発展によつて,以前は処置不可能であつた心臓血管損傷患者も救命される事が可能となつてきたが反面外科医に求められる外傷直後の適正なる診断,および,迅速なる処置について精通している事が要求されるに至つた.
 ここではそのうち大静脈の損傷を中心に記す事とする.

Ⅸ.四肢・手の外傷

切断肢の処置・再植

著者: 白羽弥右衛門 ,   上道哲

ページ範囲:P.1357 - P.1363

はじめに
 戦傷や不慮の外傷で完全に切断された四肢をもとどおりに接着したいとの望みは,だれもがいだくところであつて,古くから多くの外科医によつてこころみられ,しかも失敗をくり返してきたことである(第1図).
 切断肢の再植をはじめて科学的に検討したのはHalsted(1887)であった.かれは,犬の大腿動・静脈を残して大腿部を切断したあとで,その再接着(血管吻合を伴うものを,とくに区別して再植ということとする)をこころみた結果,皮膚,筋,腱などの諸組織をおのおの綿密に縫合すれば,創傷治療の機構がおこりうることを確めた.その当時においては,もちろんまだ血管の吻合技術がなく,四肢主幹動・静脈の損傷に対しては,もつぱら結紮が行なわれていたにすぎない.血管吻合法が技術的に開発されたのは今世紀のはじめであつて,これはCarrelとGuthrieらの功績であり,その後に至つてはじめて血管吻合を伴う真の意味での切断肢再植が実験的に行なわれるようになつたしだいである.

手の外傷—救急処置と治療方針のたて方

著者: 諸橋政樻

ページ範囲:P.1365 - P.1372

いとぐち
 Mason,Bunnellなどの先覚の努力によつて確立された「手の外科」の進歩は著しいものがあるが,手の外傷に対する救急処置の実際はこの分野において常に主要な位置を占めている.それは生命に対する危険度は少ない反面,文明社会における手の機能の重要性と美容上の価値がますます認識されるようになつておるからであり,またようやく体系化されてきたばかりといつても過言ではないからである.たとえばただ1本の屈筋腱が切れた場合でさえ十分な機能の復元をもたらすには高度の技術が要るという一事をみてもよくうかがい知れよう.
 しかし手の外傷の治療といつても原則的には他の外傷と格別変つたことはなく,要約すれば初期治療のやり方が最終の結果と直接結びついているということで,ただ手という比較的小さな部分にコンパクトにつめ込まれている諸器官や組織が同時に損傷をうけ創傷治癒機転である瘢痕が個々の組織の機能回復を障害しやすいというところに特殊性があるといえよう.ところでわが国においては手の外傷をまず真先にとり扱うのは救急病院や一般外科医であり,ここで処理されたものが手の外科専門医のいる医療機関に送られるというケースが多いというのが現況のようである.

Ⅹ.多臟器の複合重症外傷

多臓器の複合重症外傷患者の診断と治療方針—腹部外傷を中心として

著者: 佐野進 ,   大井竜司 ,   芳賀昭 ,   児玉南海雄 ,   小松伸郎

ページ範囲:P.1373 - P.1388

はじめに
 外傷程複雑で多種多様の様相をおびているものはない.一元的な慢性疾患で数多い所見を時日をかけて一つ一つ分析検査して最終的な診断を下すのとは根本的に異なり,逆に多くはショックという一見すると単純とも思われる症状の中から短時間で数多い損傷の存在の予想の全てを推察して行かねばならず,その中の一つでも見逃したならば救命のきずなが断ち切られる陥し穴を常に秘め隠している.依頼された題が多臓器の複合重症外傷患者の診断と治療に課せられたのもよつて来る由縁であり,最近の外傷の特性を如実に現わして居るからであろうと思われる.かかる観点より,この報告を単なる統計にしたくともなく,実際に当面したかずかずの腹部外傷に種々の合併損傷を伴つた典型例をあげ,救命し得たのは何故か,何故に死亡したのか,また死亡例の中には,さらに細心の注意をむけて居たならばあるいは助け得られたであろうかも知れないものもあることを反省し検討してみたい.

カラーグラフ 外傷シリーズ・8 顔面外傷の臨床

Ⅰ.顔面軟部損傷

著者: 原科孝雄 ,   礒良輔 ,   田嶋定夫

ページ範囲:P.1158 - P.1169

 最近道路の発達と自動車の激増により各界の必死の安全対策にもかかわらず交通外傷は年々増加の傾向にある.交通外傷患者を取り扱う病院側にあっては交通事故の高速化に伴ない病相も複雑多様化し,各科専門医を要求されるようになった.かつては命さえ助かればと放置されていた顔面外傷も正常な社会生活をおくるためにもつ顔面の機能,形態が重要視されるようになり,これを専門的にとりあつかう科,形成外科が生まれてきた.
 ここでは顔面外傷の臨床シリーズ第1回として顔面の軟部損傷の症例を紹介する.

医療の眼

犬と猿・嫁と姑・医者と医者 2—辺地医大設立に反対した所沢医師会の倫理/犬と猿・嫁と姑・医者と医者 3—巨大な開業医

著者:

ページ範囲:P.1197 - P.1197

 4月25日,毎日新聞社説,「医大設立反対ストと医の倫理」.自治省が主体となつて行つている辺地医大の誘致に反対した所沢医師会の反対ストに対して「これじやまるで,デパートと小売店の対立と同じじやないか!」という論旨である.「医の倫理はどこへいったのか!」という指摘である.従来国公立病院のベット数を増やすという場合や,新病院設立のさいに必ずといつてよいほどこうしたトラブルがあつて,医師会が反対の決議をすると,それだけで,病棟新設は許可が下りずに,医師会と病院側の話し合いが始まるのが恒例である.これは元来,地域医療に責任をもつべき(現在責任をもつているかどうかは別として)地区医師会に相談なく,やたらに病院を建てようとする国公立病院側の官僚的方法に対抗する,地区医師会の最低限の知恵だとみるべきであろう.
 それにしても,こんどは,そんじよそこらの公立病院とはわけが違う.自治省,文部省,厚生省の3省が関連して,審議会があつて,いささか相手が大きすぎる.所沢の医師会という小さな集団の反対意見は,どう考えても聞き上げてもらえないので,予防接種,乳幼児健診への協力拒否という,最大級の表現をしたものであろう.

トピックス

人工透析の適応—最近の変化

著者: 大沢炯

ページ範囲:P.1363 - P.1363

 最近数年間といつてもここ3,4年の自験例や同専門の諸家の意見から,あるいは外国誌の傾向からも人工透析の適応は変化をしつづけているもののようである.そもそも透析が,人工腎臓(H.D.)の形で医療の実用に供されたのは,1950年代の初め重篤な外傷性急性腎不全に朝鮮戦線で応用され,目覚ましい成績を挙げたことに始まり,まず急性腎不全に,約10年後には,米国で慢性腎不全にと,その用途を拡大した.一方,もう1つの透析法,腹膜灌流(P.D.)は,これより早く1946年頃までには原則的には実用化され,50年代の初期には,その臨床的応用の実績が一般に発表され,1960年代前半までの普及はめざましいものがあつた.その後,主として所要時間と高い透析効率のゆえに人工腎臓すなわち,血液透析の急速な普及となり,一部では,安価,簡便であるとの理由以外には腹膜灌流が顧みられない程の状態となつていたのがつい最近までの状況である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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