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特集 産業医学と臨床検査 Ⅱ.有害因子と臨床検査 2 化学的因子
16 発癌性物質
著者: 和田攻1 山崎信行1 長橋捷1
所属機関: 1東京大学医学部衛生学教室
ページ範囲:P.1428 - P.1436
文献購入ページに移動1775年,英国の外科医Pottが,煙突掃除人に多発する陰嚢癌の原因が煤(すす)であることを報告したのが,職業癌の歴史の第一ページであり,その後の主な歴史は表1に示すとおりである2).この表からわかるように,職業癌に対する対策としての規制やAmes法などの検査法が開発され,まず一段階の予防が行われるようになった現在まで,約200年の年月がかかっている.
これは,一つにはある化学物質が職業癌を起こさせるかどうかが判明するまでにはきわめて長い年月を要する,ということによる.例えば石綿についてみると,石綿工業が発足したのは1870年であり,健康障害である石綿肺が解剖学的に初めて示されたのが1899年であり,石綿による気管支癌が最初に見いだされたのが1934年で,中皮腫が発見されたのは1955年である.すなわち,石綿に特徴的な中皮腫が発見されるのに75年かかっているのである.また,塩ビモノマーが工業的に使用され始めたころは1920年代であり,CreechとJohnsonが重合工程作業者から3人の肝血管肉腫患者を見いだし,この疾患は一般人ではきわめてまれであることから3),全国の塩ビモノマー作業者の疫学調査を行い,その因果関係を明らかにできるまでに約55年かかっているのである.
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