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基礎科学からの提言・8
電子スピン共鳴法(ESR)と医学の接点
著者: 渡部徳子1
所属機関: 1東京大学理学部化学教室
ページ範囲:P.192 - P.199
文献購入ページに移動はじめに
Ampèreの法則によれば,環電流が流れると磁場(磁気モーメント)が誘起される,すなわち磁石ができるという.原子や分子の中で,この環電流の源となるものの一つに,電子の軌道運動と自転運動(スピン)とがある.本稿で取り上げる電子スピン共鳴法(Electron Spin Resonance;ESRまたはElectron Paramagnetic Resonance;EPR)は不対電子の運動によって作られる永久磁石の性質の違いを検出する分光学であり,核磁気共鳴(NMR)と並んで,磁気共鳴法の双壁を成すものである.
ESRの測定法が1945年に見いだされたころは物理学者によって遷移金属イオンを中心に実験的,理論的側面が研究されたが,1952年ころから化学者による溶液中の有機ラジカルへの応用が始まり,さらにスピンラベル法の発展につれて(1965年)生化学,生物学の分野で,本来常磁性でない生体関連物質(膜,蛋白質など)に対象が広がっていった.1970年代以降,物理,化学,生物やそれらの境界領域での種々の基礎的問題はもちろんのこと,生命科学,環境科学,地球科学などで応用面の検討も行われている.このような時期に,医学,臨床検査における実用的な応用の可能性に目が向けられるのも歴史の流れの中の必然かと思われる.
Ampèreの法則によれば,環電流が流れると磁場(磁気モーメント)が誘起される,すなわち磁石ができるという.原子や分子の中で,この環電流の源となるものの一つに,電子の軌道運動と自転運動(スピン)とがある.本稿で取り上げる電子スピン共鳴法(Electron Spin Resonance;ESRまたはElectron Paramagnetic Resonance;EPR)は不対電子の運動によって作られる永久磁石の性質の違いを検出する分光学であり,核磁気共鳴(NMR)と並んで,磁気共鳴法の双壁を成すものである.
ESRの測定法が1945年に見いだされたころは物理学者によって遷移金属イオンを中心に実験的,理論的側面が研究されたが,1952年ころから化学者による溶液中の有機ラジカルへの応用が始まり,さらにスピンラベル法の発展につれて(1965年)生化学,生物学の分野で,本来常磁性でない生体関連物質(膜,蛋白質など)に対象が広がっていった.1970年代以降,物理,化学,生物やそれらの境界領域での種々の基礎的問題はもちろんのこと,生命科学,環境科学,地球科学などで応用面の検討も行われている.このような時期に,医学,臨床検査における実用的な応用の可能性に目が向けられるのも歴史の流れの中の必然かと思われる.
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