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文献概要
今月の主題 定量的細菌検査とその臨床的意義 総説
腸内フローラと疾病
著者: 小澤敦1 高橋靖侑2 相場勇志3
所属機関: 1東海大学医学部微生物学教室 2わかもと製薬株式会社研究部 3わかもと製薬株式会社生物化学研究部
ページ範囲:P.609 - P.616
文献購入ページに移動健康状態のヒトの消化器管腔内には,つねに常在細菌叢(腸内フローラ)と呼ばれる多種の細菌群が生息しており,宿生との間に生態学的調和を保持している.腸管内細菌への注目は19世紀の終わりごろ,Pasteurの時代に生体の生命維持に必須のものかどうかという論議から始まり,20世紀に入って,腸管内細菌の病原性,細菌の生産する外毒素,内毒素の研究が盛んとなり,ヒトの罹患する疾患への直接の関係がしだいに認められてきた.現在では,こうした腸内常在細菌に属する細菌感染による病態への注目と,無菌動物や抗生物質の開発から,腸内フローラが果たす宿主の生理や病態生理への関係が考えられるようになり,免疫,発癌,栄養吸収などとの関連にも目がゆきとどき始めている1,2).
われわれは健康な状態においては,菌側因子と宿主側因子との相関性の中で,常在菌叢の生態学的バランスが保持されている.このようなバランスが破たんをきたすのは,生体における器質的,機能的障害や悪性腫瘍,血液疾患,代謝不全疾患などの内的要因と,それに伴う抗菌的,抗癌的化学療法剤の乱用といった外的要素によってもたらされるものである1).近年特に,化学療法剤の乱用,多用,副腎皮質ホルモン,抗癌剤などの広範な使用,ならびに放射線療法などの導入によって疾病構造が大きく変貌し,チフス,コレラ,赤痢,結核,ジフテリア,百日咳などの各種の古典的,あるいは外来性の感染症による疾病とは異なる,いわゆる非病原菌または弱毒菌という名で総括される菌によって起こされるところの日和見感染症が臨床医学的に注目されてきている3).
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