今月の主題 心電図の最前線
技術解説
体表面心臓電位図の逆問題解—体表面心臓電位から心臓内起電力を推定するには
著者:
平柳要1
小沢友紀雄2
所属機関:
1日本大学医学部衛生学教室
2日本大学医学部第二内科学教室
ページ範囲:P.513 - P.518
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体表面心臓電位図の逆問題,もしくは心電図逆問題とは,胸壁面全周上で観測された多数誘導(87〜216誘導)心電図から数値計算法によって心臓内の起電力を推定することである.近年,ME機器やコンピュータの性能が向上してきたため,体表面心臓電位の測定・記録や心電図逆問題の計算が小規模の装置で行えるようになった.心電図逆問題に関して,これまでに種々の解法が提案されており,推定精度の検討や臨床応用が試みられている.しかし,心電図逆問題で唯一の解が得られるのは心表面電位までであり,心臓内の起電力は一意に決定できない.そのため,逆問題の推定対象は実際の心起電力の代わりに,双極子や多重極子などの心起電力モデルをあらかじめ与え,そのパラメーター(等価心起電力モデルの位置,方向,大きさなど)を決定するか,心表面電位を求めるかの二通りの方法が用いられる.いずれの推定法においても,逆問題で得られる心電異常部位の位置情報はかなり高いが,微細な心電異常や複雑な心電異常の部位推定では,双極子間の相互干渉や推定心表面電位値の低下などを引き起こし,精度が不十分となることがある.そのため,これからの心電図逆問題は,体表面心臓電位の高精度計測,正確な体型モデルや心臓モデルの構成および興奮伝播などの生理的条件の導入によって,心臓内の興奮波面を推定する方向に進んでおり,今後の理論・実験・臨床における検討により,さらに推定精度が高い心電図逆問題の開発が期待される.