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文献詳細

雑誌文献

臨床検査36巻3号

1992年03月発行

文献概要

今月の主題 ビタミンをめぐる臨床検査 話題

癌とレチノイド

著者: 四童子好広1 武藤泰敏1

所属機関: 1岐阜大学医学部内科学第一教室

ページ範囲:P.276 - P.279

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1.はじめに
 "癌は遺伝子の上に生じた変化に由来する病気である"という概念がようやく定着しつつある.しかも,それは単に1回の突然変異というよりは複数の遺伝子上にランダムに発生する一連のアクシデント(multiple hits)の蓄積の帰結であるといったほうがよい.特に細胞分裂または増殖に関連した遺伝子の上に起こった変化が発癌において重要な出来事となる.細胞分裂に関与する遺伝子は原則的にそれを促進する(stimulatory)遺伝子と,抑制する(inhibitory)遺伝子の2つに分類できる.前者にはプロト癌遺伝子,後者には癌抑制遺伝子が含まれている.プロト癌遺伝子は変異(点突然変異や欠失,遺伝子増幅,染色体再編成)の結果,癌遺伝子となり,その産物の機能は亢進する(hyperactive).一方,癌抑制遺伝子は,突然変異や遺伝子欠損などの要因で,その産物が消失するか,もしくは機能不全になる(inactive).すなわち,プロト癌遺伝子はその遺伝子産物の中にhyperactiveなものが生じるという"dominantpositive"な変異によって,発癌の要因となる.そして,癌抑制遺伝子はその遺伝子産物がすべてinactiveになるか,すべて消失するという"recessive negative"な変異によって,発癌に結びつくといえる.
 必須微量栄養素の1つであるビタミンAは,その合成類縁化合物とともにレチノイドと総称されている.レチノイドは体内で生合成することのできない明らかな環境因子である.従来,レチノイドは培養癌細胞や担癌動物において癌細胞の増殖に抑制的に作用することが示されてきた.前述のように癌は遺伝子の病気である.環境因子であるレチノイドは,癌細胞の内奥にある核の中にまで入っていき,そこにある遺伝子DNAに対してなんらかの作用をしているのであろうか.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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