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文献詳細

雑誌文献

臨床検査36巻3号

1992年03月発行

文献概要

トピックス

biofilmとbiofilm病

著者: 永山憲市1 本田武司1

所属機関: 1大阪大学微生物病研究所

ページ範囲:P.310 - P.311

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 コッホによる純粋培養法の確立以来,純粋培養された細菌の研究が,細菌学あるいは細菌感染症学の基本となってきた.つまり,細菌の生育にもっとも適した環境において生育した純粋培養菌を基にさまざまな検索が行われ,これらの検索結果を基礎としてワクチンや抗菌剤が開発されて,現在の細菌感染症治療法の確立に多大な貢献を果たしてきたのである.
 しかしながら,近年in vivoあるいは自然環境と同様の状況において生育した細菌の検索が行われるようになり,純粋培養菌つまりin vitro培養菌で生育した菌との比較が論じられるようになってきた.そして,細菌は周辺環境の変化に対応して,その形態を変化させたり,新たな産物を生み出し,さまざまな姿で生息していることがわかってきたのである1).このような形態変化や新たな産物の中で注目されているのがbiofilm2)である.多くの細菌は生体あるいは無機質に付着,定着した後,菌体外に多糖体を主成分としたglycocalyx3)つまりexopolysaccharide matrixを産生する.これを介して菌体は互いに結合,凝集し付着定着をより強固なものとする.さらには,菌体表面を覆うほどにglycocalyxは成長し,生体あるいは無機質の表面に微生物およびその産物であるglycocalyxから成る膜“biofilm”を形成するというものである.このbiofilmは栄養豊富な培養最適培地などの環境下では通常,形成されず逆に栄養のより悪い環境下にみられる現象である.また特殊な能力を持つ一部の細菌によって形成されるものではなく,細菌の持つかなり普遍的な現象であると考えられている.biofilmにより包まれた菌は,抗菌剤の透過が阻害されるため,抗菌剤に抵抗性を示し4),さらにbiofilmは多核白血球などの食細胞による宿主側からの攻撃から菌を保護する役目も担っている5).一方,細菌はglycocalyxを介して生体組織に間接的に付着,定着するため,細菌が産生するproteaseなどの外毒素はglycocalyxに阻まれて直接,生体組織を攻撃できない2).したがって組織の障害も軽微で,生体の炎症反応も細菌の直接付着の場合と比較して弱く,宿主側からの排除活動も積極的に働かない.このような結果,biofilm形成は細菌の生息圏“隠れ家”の形成を意味し,細菌は付着,定着した局所に長期にわたってとどまることができ,さまざまな外敵からみずからを守る自己防衛機能の1つと考えられる.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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