文献詳細
文献概要
COFFEE BREAK
橋のおかしさ
著者: 屋形稔1
所属機関: 1東新潟病院
ページ範囲:P.739 - P.739
文献購入ページに移動時代小説の橋は人物の生活や風俗を描き出すためのロマン溢れる橋の姿であるが,私たちの見る風景としての橋も人生の記憶の中に刻みこまれていることが少なくない.少年の頃故郷の村はずれの阿武隈川に渡された鶯橋という,当時すでに老朽化しつつあった木橋があった.点在する村落をつなぐもので,春に鶯の多いための愛称であったのか,渡るとキイキイきしむための通称であったのか定かでない.この流れの反対の村はずれにかかる橋は確か飽戸橋という名であったがこの由来も思い出せない.ただ,この附近は一面森と林で八幡太郎義家の史蹟が沢山残っており,矢を葺いてそこに大将が宿ったところからわが村の名が矢葺き(矢吹)となったと伝えられていた.五里ほど離れた親戚によく徒歩や自転車で遊びに行ったが,帰途にここまで辿りつくとホッとしたもので,姿変われどわが心象風景には色濃く残っている.
掲載誌情報