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文献詳細

雑誌文献

臨床検査42巻11号

1998年10月発行

文献概要

Topics 1998

人畜共通感染症

著者: 大友弘士1

所属機関: 1東京慈恵会医科大学熱帯医学

ページ範囲:P.1460 - P.1460

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 人畜共通感染症(zoonosis)とは,脊椎動物とヒトとの間に自然に移行しうる疾患または感染と定義される疾患群である.この疾病概念は19世紀中葉から論議され,ドイツの病理学者Virchowによって初めて用いられたというzoonosisの言葉は,本来動物の疾患を意味していた.その後,動物固有の疾患だけでなく,ヒトの動物原性疾患,さらにヒトと動物に共通する疾患を指すようになったが,当初は狂犬病,牛痘,炭疽,鼻疽,若干の寄生虫症などがzoonosisとして扱われるにすぎなかった.しかし,研究成果が蓄積されるにつれ,自然界にはウイルス,リケッチア,クラミジア,細菌,真菌,寄生虫(原虫,蠕虫),節足動物などの病因保有動物が感染源になる多くの人畜共通感染症が存在し,特に熱帯,亜熱帯地域において猖獗を極めていることが明らかにされた.
 そのため,この問題を重視した世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)は,1950年に人畜共通感染症に関する合同専門委員会を発足させ,1958年にストックホルムで開催された同委員会の第2回報告書(1959)において冒頭の定義付を行い,1966年にジュネーブで開催された委員会の第3回報告書(1967)において主要人畜共通感染症80疾患,その病原体103種属を挙げているが,その大半は原虫,蠕虫,節足動物が病原体の疾患である.なお,WHOはその後も新たな疾患を追加し,1979年には寄生虫疾患が55種に,1982年にはウイルス,リケッチア,クラミジア,細菌,真菌による疾患は66種に増加している.また,最近における地球の温暖化,開発に基づく森林伐採による環境破壊や生態系の変化などに伴う病原体の拡散,航空機輸送の発達に伴う世界の狭域化と国際間旅行者の増加,生鮮食品の大量輸入や流通機構の発達,食生活の変化,アウトドアライフの変遷による野生動物への接近,ペットブームなどによってヒトと動物の関係が以前に比して緊密かつ複雑になっている.その結果,各地で人畜共通感染症のアウトブレイクが起こったり.罹患頻度も高くなっている(表1).

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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