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文献詳細

雑誌文献

臨床検査42巻11号

1998年10月発行

文献概要

Topics 1998

プリオン病

著者: 寺尾安生1

所属機関: 1東京大学医学部神経内科

ページ範囲:P.1483 - P.1483

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 プリオン病とはヒトおよび動物にみられる一連の伝播性海綿状脳症でCreutzfeldt-Jakob病(CJD),Gerst-mann-Straussler-Scheinker病(GSS),クルなどがある.CJDは発症年齢が60歳前後,通常孤発性で,進行性痴呆とミオクローヌスを呈する疾患である.不眠,食欲不振,不穏,めまいなど非特異的な症状で初発し,その後構語障害,失調,不全麻痺,幻覚,行動異常,視覚異常がみられるようになる.亜急性に進行し1年前後で寝たきり,無言無動の状態になって死亡する.一方,GSSは常染色体優性遺伝を呈し,50歳台に小脳失調などで発症し後に絢呆を伴う疾患である.経過は平均60か月程度で,CJDよりもやや長い.CJDがプリオン病全体の9割,GSSがそれ以外のほとんどの症例を占める.クルはニューギニアの食人種でみられたタイプであるが,食人習慣がなくなるとともに消滅した.プリオン病には,文字どおり亜急性の経過で海綿状に脳がスカスカになるタイプのものと,より経過が長く脳内にクル斑というアミロイド斑が蓄積するタイプがある.前者の代表がCJD,後者の代表がGSSであるが,いずれの場合もプリオン蛋白の脳内への蓄積が脳症の原因であると考えられている.クル斑はプリオン蛋白の蓄積そのものであることが免疫組織学的に示されている.
 Prusinerはヒトの海綿状脳症と類似した病理像を呈するスクレイピー感染ハムスター脳から最も感染性の高い分画を取り出し,これをプリオン蛋白(small proteinacious infectious agent,以下PrP)と名付けた1).PrPはこの脳症に罹患した動物の脳にクル斑の形で蓄積するばかりでなく,プリオン病発症脳から抽出した乳剤を実験動物に接種することによって,プリオン病を実験的に伝播させることができる.したがってプリオン病は基本的には感染疾患と考えられる.その一方でPrPは正常のヒトでも20番染色体短腕上に253個のopen reading frameとしてコードされている膜貫通性蛋白であることがわかっている2).したがってPrPには正常型のPrPと異常な感染型のPrPとがあるわけであるが,感染型のPrPが入り込んで脳内で増殖蓄積し神経細胞を死に至らしめることがプリオン病の基本的病態であると考えられる.このほかにPrP遺伝子が後天的に変異を起こす場合や,宿主の側にある種のPrP遺伝子の変異があると正常型から異常型PrPへの構造変化が起こりやすくなる場合(遺伝性のプリオン病)もあると考えられている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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