icon fsr

文献詳細

雑誌文献

臨床検査42巻5号

1998年05月発行

文献概要

今月の主題 注目されている感染症―Emerging Infectious Diseases 話題

ヒトのエキノコックス症の診断

著者: 神谷正男1

所属機関: 1北海道大学大学院獣医学研究科寄生虫学教室

ページ範囲:P.563 - P.565

文献購入ページに移動
1.はじめに
 エキノコックスのうち世界的に分布する単包条虫Echinococcus granulosusと北方圏諸国を中心に分布する多包条虫E. multilocularisが特に重要である.前者が主に家畜間で伝播するのに対して,後者が野生動物間で伝播する.世界的には多包条虫によりも単包条虫による被害のほうが大きいが,最近,野生動物の餌となる厨芥,畜産廃棄物の増大などにより感染源動物(キツネなど)が殖えて多包条虫の分布が拡大し問題になっている.キタキツネやイヌの糞に混じったエキノコックス虫卵が水,食物などを介してヒトに経口的に感染すると肝臓に移行した幼虫は無性増殖し致死的な肝機能障害をもたらす.
 わが国においても北海道を中心に分布が拡大している.1997年5月には札幌市の中心部の住民が新たに患者として認定され,さらに,隣接する地域の飼いイヌがエキノコックスに感染していることが明らかとなった.現在の対策は主にヒトの診断と早期治療に努力が払われている.しかしながら,まだヒトのすべての症例に適用できる完全な治療法がなく,また,ヒトからヒトへ感染する疾患ではないので,当然のことながら,この対策では感染を予防することはできない.したがって,感染源であるキツネやイヌなどの終宿主を中心にした動物対策は重要である.これを実施しなければ患者数は増大し,さらに流行が本州へ広がるとして憂慮されている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?