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文献詳細

雑誌文献

臨床検査43巻11号

1999年10月発行

文献概要

特集 臨床検査の新しい展開―環境保全への挑戦 Ⅱ.環境問題と疾病 2.酸性雨と地球環境,疾病

2)酸性霧と呼吸器疾患,喘息

著者: 田中裕士1 寺本信1 兼子聡1 阿部庄作1

所属機関: 1札幌医科大学医学部第三内科

ページ範囲:P.1269 - P.1273

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酸性霧の現況
 霧の定義は気象学上,水平視程距離が1km以内つまり,1km先のものが見えない大気の状態を言う.近年,欧米諸国で地球規模の問題の1つとして酸性雨(pH5.6以下),酸製霧が注目され,わが国での調査でもpH4.0~5.0の雨が全国各地で報告されている.酸性霧の世界共通の定義はないが,年間の平均pHが5.0以下のものを一般に示す.わが国において,栃木県日光と北海道釧路市で霧のpHを定期的に測定しており,最近の報告ではpHが3.0近くまで低下することが観察され,人間を含めた自然界全体に及ぼす影響が懸念されている.一般にNO2やSO2のような吸湿性大気汚染物質は霧の核になりやすい.霧は長期に大気中に浮遊しているため,雨と比較すると種々の大気汚染物質を吸着し,呼吸器系に吸入されやすい.1952年のロンドンに発生した霧により,呼吸器系の疾患による死亡者が増加したとの報告1)や,北米での大規模な10年間の疫学的調査で,酸性エロゾルの多い地域ほど,慢性気管支炎などの閉塞性肺疾患患者の呼吸器症状の悪化が有意に増加するという報告がある.また,夏期に発生するスモッグが小児の運動喘息に悪影響を及ぼすとの報告などがあり,原因としてエロゾルに含まれる大気汚染物質が気道になんらかの影響を及ぼしたのではないかと考えられている.
 北海道の太平洋沿岸は霧が多く発生する地域であり,釧路では発生時間の短いものを含めると1年の約半数近く発生する.霧のpHは,北海道教育大学釧路校の西尾文彦らにより定期的に測定されており,近年,年平均の霧のpHが5.0より低くなってきていることが判明している.われわれは,西尾らにより集められた霧水の一部を分析したところ,図1に示すように陽イオンでは,NH4が最も多く,陰イオンではSO42-およびNO3が大半を占めた.この傾向はこれまで海外で報告された結果とほぼ同様のものである.つまり,窒素酸化物(NOx)および硫黄酸化物(SOx)が霧の酸性化の原因の可能性が高いことを示している.NOxは主に自動車の排気ガス,SOxは一般に工場からの煙と言われているが,大陸から偏西風に乗ってくる大気汚染物質や海水自体からのものも推測されている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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