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雑誌詳細

文献概要

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

プロテインS異常症

著者: 濱崎直孝1 木下幸子1 脇山マチ子1 中原睦子1 飯田廣子1

所属機関: 1九州大学医学部附属病院検査部

ページ範囲:P.1025 - P.1031

はじめに
 血栓症発症に体質的要因があることは昔から考えられており,その考えにある程度の裏付けを与えたのが,血栓症患者家系において,アンチトロンビン活性の低下と血栓症発症との相関を調べたEgebergの報告である1).この報告は1965年に行われ,それ以来,凝固関連諸因子と血栓症との相関が主として欧米で調べられており,プロテインS,プロテインC,アンチトロンビンなどの活性低下が血栓症発症の原因になると論じられてきた.しかしながら,欧米の研究ではプロテインS,プロテインC,アンチトロンビンなどの機能異常は血栓症患者の5%以下であり,決定的な因果関係を論ずるまでにはなっていなかった.
 われわれは九州大学医学部附属病院検査部において,血栓を形成している,あるいは,形成している可能性が高い疾病と凝固・線溶関連因子との関係を系統的に検査をすることで,血栓止血亢進をきたすさまざまな因子と疾病との関係を調べている.その結果,これらの疾患の中で凝固制御因子,特に,プロテインS・プロテインC凝固制御系に異常がある症例が予測以上に多いことが判明してきた2).発症との因果関係を厳密な意味で証明しているのではないが,われわれはこれらの因子異常が血栓形成の主要な要因になっていると推測している.一方,1993年にDahlbackらは"欧米白人種の家族性血栓症患者の80%がプロテインS・プロテインC凝固制御系に抵抗性を示す凝固第V因子(Factor V Leiden)を持っている"と報告している3~5).Factor V LeidenはプロテインS・プロテインC系に抵抗性で,その結果,プロテインS・プロテインC凝固制御系による凝固の制御がかからないために,現象としては,プロテインS・プロテインC凝固制御系の機能異常と同じことになる.このような事実を考慮すると,プロテインS・プロテインC系は生体内で適正な凝固制御を行い過剰な血栓形成ができないように作用し,その機能低下が血栓症発症の1つの原因になっている可能性が推測できる.白人血栓症患者にFactor V Leiden遺伝子を持っている人が多く,Factor V Leiden遺伝子を持っていないと言われている6,7)日本人血栓症患者ではプロテインS・プロテインC凝固制御系の異常が多いのは頷ける気がする.

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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