文献詳細
文献概要
今月の主題 聴覚障害とその診断 話題
耳音響放射の理論と実際
著者: 和田仁1
所属機関: 1東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻
ページ範囲:P.1161 - P.1163
文献購入ページに移動1.はじめに
耳から音が出てくるという興味ある現象が,1978年英国ロンドン大学のKempにより初めて報告され1),その後,耳音響放射(otoacoustic emissions;OAEs)と名付けられた.OAEsの一種に,トーンバースト音やクリック音などの発振時間の短い刺激音によって誘発される誘発耳音響放射(transiently evoked OAEs;TEOAEs)がある.図1は,音圧60dB SPL,周波数1kHzのトーンバースト音を入力したときの,外耳道内圧の時間変化の波形である.刺激音入力後,約11msec,16msecに,刺激音とは異なる波形が現れ,それぞれfast component,slow componentと名付けられている2).
現在,TEOAEsの各componentが生じる一因として,基底板の形状・材質が,各部位で不連続に変化しているためという考え方が有力視されている3).基底板の不連続性は,コルチ器上の外有毛細胞(outer hair cell;OHC)の配列の不規則性が1つの原因であると考えられている(図2)4).また,基底板は,蝸牛入口から蝸牛孔への長さ方向よりも幅方向の線維が支配的であるため,幅方向の線維の配列状態により,基底板の形状・材質が長さ方向に不連続になっていることも考えられる(図3).しかし,TEOAEsの各componentの発生機序はいまだ明確になっていない.そこで本報告では,基底板の形状・材質が長さ方向に不連続であると仮定し,蝸牛の数理モデルによりTEOAEsの数値シミュレーションを行い5),TEOAEsの各componentの発生機序を理論的に説明してみた6).
耳から音が出てくるという興味ある現象が,1978年英国ロンドン大学のKempにより初めて報告され1),その後,耳音響放射(otoacoustic emissions;OAEs)と名付けられた.OAEsの一種に,トーンバースト音やクリック音などの発振時間の短い刺激音によって誘発される誘発耳音響放射(transiently evoked OAEs;TEOAEs)がある.図1は,音圧60dB SPL,周波数1kHzのトーンバースト音を入力したときの,外耳道内圧の時間変化の波形である.刺激音入力後,約11msec,16msecに,刺激音とは異なる波形が現れ,それぞれfast component,slow componentと名付けられている2).
現在,TEOAEsの各componentが生じる一因として,基底板の形状・材質が,各部位で不連続に変化しているためという考え方が有力視されている3).基底板の不連続性は,コルチ器上の外有毛細胞(outer hair cell;OHC)の配列の不規則性が1つの原因であると考えられている(図2)4).また,基底板は,蝸牛入口から蝸牛孔への長さ方向よりも幅方向の線維が支配的であるため,幅方向の線維の配列状態により,基底板の形状・材質が長さ方向に不連続になっていることも考えられる(図3).しかし,TEOAEsの各componentの発生機序はいまだ明確になっていない.そこで本報告では,基底板の形状・材質が長さ方向に不連続であると仮定し,蝸牛の数理モデルによりTEOAEsの数値シミュレーションを行い5),TEOAEsの各componentの発生機序を理論的に説明してみた6).
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