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雑誌詳細

文献概要

今月の主題 生体材料の取扱いと倫理 話題

生体材料の研究利用に関する包括的インフォームド・コンセント

著者: 笹子三津留1

所属機関: 1国立がんセンター中央病院第一領域外来部

ページ範囲:P.1537 - P.1540

1.生体材料の研究利用

 診療に伴って生じる生体材料は手術材料,生検材料,血液,尿など多岐にわたる.従来はこれらを材料として様々な計測,分析等を行い,それらと臨床データを結びつけ解析するといった医学研究は日常的に行われてきた.研究意図によって採取された材料ではなく,純粋に医療に伴って発生した材料の後利用であるから,利用することに関して患者さんに同意を得る必要があるという発想はなかったといえる.しかし,個人情報の保護の立場が明確化され,法律までできた今日,このような行為はいくつかの問題点を含んでいる.まず,このような研究においては,資料にカルテ番号なり患者氏名なり,即患者を特定しうる情報がついており,それを元に病歴などから患者に属するいくつもの情報を採取することが多い.研究半ばで,不足した情報を追加項目として追加することもラベルが付いているからこそ簡単にできるわけである.予後を追跡することも然りである.研究当事者はこのように収集した情報を昔は集計表,今ではパソコンの表ソフトなどで管理していることが多いと思う.大抵は患者氏名,カルテ番号,年齢,病名,病期,などが一覧表に含まれ,ときには連絡先まで含まれていることもある.このような表の管理に医療者,研究者はどこまで気を遣ってきたであろうか.今やパソコンはインターネットを介して世界に通じており,管理を誤るとプライバシーは一瞬にして世界中の知るところとなる.誰でも容易に理解はできるが,どこまで真剣にそのリスクを評価し,対策を施してきたであろうか,おおいに疑問である.問題はこれだけではない.これらの集計表を作るような操作は以下に述べる点で確実に個人情報保護の立場を踏みにじっている.この資料の身元患者は治療を目的に資料となるものが採られることを同意したのであり,研究のために提供したわけではない.本人の承知しない目的で個人情報が扱われる(操作を受ける)ことがないようにする権利が個人情報保護におけるもう1つの要件であり,このような操作は確実に個人情報保護違反である.治療,あるいは検査の同意にはこれらの資料の後利用の同意は含まれていない.

 2. 疫学研究倫理指針と臨床研究倫理指針

 疫学研究倫理指針の「第4章:個人情報の保護等」の中に「資料の保存及び利用」の項があり,人体から採取された資料の利用に関して以下のように記述されている.

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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