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文献詳細

雑誌文献

臨床検査48巻7号

2004年07月発行

文献概要

今月の主題 ドーピング・スポーツ薬物検査 話題

成長ホルモン検査法の開発状況

著者: 佐藤充彦1 植木眞琴1

所属機関: 1㈱三菱化学ビーシーエルドーピング検査室

ページ範囲:P.785 - P.788

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 1.はじめに

 ドーピング検査技術の進歩によって興奮剤・麻薬性鎮痛剤・蛋白同化ステロイドなどの多くが高感度で検出可能となってきたため,近年スポーツ界では,もともと生体内に存在し運動能力を増強し得る生理的成分を用いるホルモンドーピングが台頭してきている.それらのうち,テストステロン系の蛋白同化ステロイド剤については,炭素同位体比からステロイド骨格の由来を調べる検査法が開発され,またEPOに関しては体内の内因性EPOと製剤由来の外因性EPOとの糖鎖構造の違いを利用して両者を分離検出することが可能となった.しかしながら,現在世界で販売されている遺伝子組換え成長ホルモン製剤(rGH)は,体内に存在するヒト成長ホルモン(hGH)の主成分と全く同じ分子構造であり,濃度の上昇や検出物の構造の一致のみをもってドーピング陽性と判定することができないことから,長い間スポーツでのGHの使用は見逃されてきた.このように,科学的証拠によってGHドーピング陽性と判定された事例は現在までのところ報告されていない.

 一方でGHがドーピング薬物として用いられているという物的証拠も次第に明らかにされている.ステロイドテストで陽性となったある陸上選手からの聴聞記録によると,選手は大会の数か月前から経口ステロイド剤の大量投与を開始し,アンドロジェンレセプターの応答が衰えてくると次に筋肉注射剤に切り替え,大会が近づいたところでテストステロン製剤に変更してそれまでに蓄積した合成ステロイド剤の体外排泄を計るとともに,大会直前にはl-DOPAやアルギニンの併用によってGHの分泌を促進しつつrGH注射で筋肉を維持する,という極めて計画的かつ巧妙な処方が用いられていた.1990年代半ばには,リトアニア・ラトビアでスポーツ選手のために臓器由来hGH製剤が製造され,医薬用rGH製剤の地下市場への横流しも頻繁に行われていたとも伝えられている.さらに1998年1月8日には,世界水泳選手権パース大会参加のためにオーストラリアに到着した選手の通関検査の際に,中国女子選手の携行品からGHのアンプルが発見され,選手は大会への参加を認められないまま失格し退去させられたことが大々的に報じられた.

 rGH製剤の価格が依然として極めて高価なことや,その筋肉増強作用が合成ステロイド剤ほど強くないことから,rGHが筋量の増加というよりは,世界選手権やオリンピックのような総合国際競技会の直前に,ステロイドによって肥大した筋肉の質を高め維持する目的で使用されていることを示唆している.したがって,GHドーピングのようなペプチドホルモンのドーピングを効果的に防ぐためには大会直前の抜き打ち検査が有効であると考えられる.

 ここでは成長ホルモンドーピングとその検査法の開発状況について解説する.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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