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文献詳細

雑誌文献

臨床検査48巻7号

2004年07月発行

文献概要

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 転写因子・7

転写因子と癌Ⅲ:p53と癌

著者: 山下聡12 土田信夫1

所属機関: 1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子腫瘍学分野 2東京医科歯科大学大学院生命情報科学教育部

ページ範囲:P.795 - P.805

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はじめに

 p53(蛋白質)は1979年にSV40ウイルスの大型T抗原と結合する,見かけ上の分子量53kDaの細胞蛋白質として発見された.1984年に遺伝子クローンが単離されたが,変異をもっていたため細胞の癌化を促進する癌遺伝子に分類された.しかし,1989年に,正常なp53は細胞の癌化を抑制する機能をもつ癌抑制遺伝子産物であることが判明した.その後,p53の生化学的機能が転写因子であること,つまり標的遺伝子の転写の活性化により癌化の抑制が行われていることが知られるようになった.

 p53(遺伝子)の産物であるp53は,様々なストレスで障害を受けた細胞のなかで翻訳後修飾を受けて発現量を増加させて,活性化され,DNAの修復を行うために細胞周期を停止させたり,アポトーシスによる細胞死を誘導させたりして変異細胞の蓄積を抑制する.これらは細胞の癌化の抑制において重要な生体反応であり,p53はこれらに転写因子として,多くの遺伝子の発現を制御できる,いわば“司令塔”としてかかわっている.このため,p53の変異や欠損は細胞の癌化を促進する.

 p53は癌の約半数に変異が認められるため,その変異の検出は癌の診断に有用である.それと同時に,p53は化学療法剤や放射線などの治療に対して感受性を決定する分子でもあるため,その変異や欠損の検査は癌治療においても重要性をもつ.また,p53はその正常型遺伝子導入などによる癌抑制機能の回復で癌の治療が期待されている分子でもある.

 本稿ではp53と癌の関係について理解を深めるために,p53の活性の制御と癌抑制に重要な機能について概説し,その臨床への応用について論述する.なお,p53の構造機能に関しては拙著1,2)の他,最近の優れた総説があるので参照されたい3)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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