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文献概要
今月の主題 院内感染制御 話題
バイオテロとその対策
著者: 加來浩器123 賀来満夫2
所属機関: 1陸上自衛隊衛生学校教育部戦傷病救急医学教室 2東北大学大学院感染制御・検査診断学分野 3防衛医科大学校衛生学
ページ範囲:P.655 - P.659
文献購入ページに移動バイオテロとは,微生物(およびそれが作り出す毒素)ならびに疾病媒介動物(蚊,ダニ,ノミなど)を意図的に散布して,政治的・宗教的・経済的にパニックを引き起こし,社会を混乱に陥れる行為である.近年,SARS,鳥インフルエンザ,狂牛病といった様々な感染症が,新興・再興感染症として国内外で問題となっているが,バイオテロは,自然流行の場合と異なる感染経路をとることから,広い意味での新興・再興感染症といえるだろう.欧米の感染症関連学会では,20世紀の冷戦直後からバイオテロの脅威が取り上げられており,軍・民挙げて対策が講じられてきた.米国では,1999年8月にニューヨーク市内でウエストナイル熱の患者が発生した際,疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)での実地疫学調査の訓練を終えた専門家(EISオフィサー:epidemiology intelligence service)が直ちに派遣され,バイオテロを想定した対策がとられた.また2001年の同時多発テロの翌日(9月12日)には,CDCが各州にバイオテロアラートを発し,主要な医療機関での拡大サーベイランスを行うよう指示した.10月には実際に炭疽菌テロの発生をみたが,その後も白い粉や猛毒リシンを用いた封筒事件が頻発しており,今後もバイオテロがいつ起こるともわからない状態となっている.このようにバイオテロ対策の先進国である米国では,常にバイオテロを念頭にした感染症危機管理体制がとられており,①兆候の早期発見システム,②被害の局限化,③院内感染制御,④検査体制の整備などに重点を置いている.
一方国内では,地下鉄サリン事件を経験したにもかかわらず,本格的なバイオテロ対策が講じられるようになったのは21世紀になってからである.現在,各省庁・機関でバイオテロへの対応が整備されつつあるが,防衛庁においては“生物戦への対応”を念頭に整備を進め,“バイオテロ発生時にも対応”できるように準備しつつある1).本稿では,バイオテロの趨勢と共に,検査室が果たすべき役割や問題点について概説したいと思う.
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