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文献詳細

雑誌文献

臨床検査49巻6号

2005年06月発行

文献概要

今月の主題 院内感染制御 話題

バイオテロとその対策

著者: 加來浩器123 賀来満夫2

所属機関: 1陸上自衛隊衛生学校教育部戦傷病救急医学教室 2東北大学大学院感染制御・検査診断学分野 3防衛医科大学校衛生学

ページ範囲:P.655 - P.659

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1. はじめに

 バイオテロとは,微生物(およびそれが作り出す毒素)ならびに疾病媒介動物(蚊,ダニ,ノミなど)を意図的に散布して,政治的・宗教的・経済的にパニックを引き起こし,社会を混乱に陥れる行為である.近年,SARS,鳥インフルエンザ,狂牛病といった様々な感染症が,新興・再興感染症として国内外で問題となっているが,バイオテロは,自然流行の場合と異なる感染経路をとることから,広い意味での新興・再興感染症といえるだろう.欧米の感染症関連学会では,20世紀の冷戦直後からバイオテロの脅威が取り上げられており,軍・民挙げて対策が講じられてきた.米国では,1999年8月にニューヨーク市内でウエストナイル熱の患者が発生した際,疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)での実地疫学調査の訓練を終えた専門家(EISオフィサー:epidemiology intelligence service)が直ちに派遣され,バイオテロを想定した対策がとられた.また2001年の同時多発テロの翌日(9月12日)には,CDCが各州にバイオテロアラートを発し,主要な医療機関での拡大サーベイランスを行うよう指示した.10月には実際に炭疽菌テロの発生をみたが,その後も白い粉や猛毒リシンを用いた封筒事件が頻発しており,今後もバイオテロがいつ起こるともわからない状態となっている.このようにバイオテロ対策の先進国である米国では,常にバイオテロを念頭にした感染症危機管理体制がとられており,①兆候の早期発見システム,②被害の局限化,③院内感染制御,④検査体制の整備などに重点を置いている.

 一方国内では,地下鉄サリン事件を経験したにもかかわらず,本格的なバイオテロ対策が講じられるようになったのは21世紀になってからである.現在,各省庁・機関でバイオテロへの対応が整備されつつあるが,防衛庁においては“生物戦への対応”を念頭に整備を進め,“バイオテロ発生時にも対応”できるように準備しつつある1).本稿では,バイオテロの趨勢と共に,検査室が果たすべき役割や問題点について概説したいと思う.

参考文献

1) 防衛庁ホームページ:生物兵器対処に係る基本的考え方,平成14年1月,http://www.jda.go.jp/j/library/archives/seibutu/150306.htm
2) Office of the surgeon general:Medical aspect of chemical and biological warfare, Textbook of Military Medicine, Part 1, pp420-421, 1997
3) Takahashi H, Keim P, Kaufmann, FA, ed al:Bacillus anthraces Incident, Kameido, Tokyo, 1993, Historical review, Emerging Infectious Disease, http://www.cdc.gov/ncidod/eid/vol10no1/03-0238.htm
4) 生物化学テロ災害対処研究会:化学剤・生物剤について.必携生物化学テロ対処ハンドブック,診断と治療社,p30,2003
5) 加來浩器,岡部信彦:生物テロ対処のための感染症サーベイランス.化学療法の領域 18(3):58-62,2002
6) 加來浩器:テロ対策と感染症法.公衆衛生 67:278-281,2003
7) 谷川清洲,熊坂一成,加來浩器,他:バイオテロリズムに対する微生物検査室の対応.臨床検査 48:59-74,2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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