文献詳細
文献概要
今月の主題 輸血の安全管理 話題
輸血関連急性肺障害
著者: 岡崎仁1
所属機関: 1日本赤十字社血液事業本部 中央血液研究所研究開発部
ページ範囲:P.205 - P.209
文献購入ページに移動1.はじめに
輸血の安全管理というテーマに沿っていえば,輸血はまだまだ安全とは言い難い印象を受ける.たとえABO,Rhなどの血液型が一緒であっても遺伝的にすべてが同一ではない(もちろん一卵性双生児からの輸血は別だが)ので実際起こりうる生体反応がすべて理解できているわけではない.凝集反応だけに限ってみても,クロスマッチは毎回の輸血に必要であるし,たとえクロスマッチ陰性の血液を輸血したとしても,副作用が起きないとは保証できない.輸血の副作用に関しては,今まであまりにも副作用がありすぎたので,軽微な副作用は仕方がないというような雰囲気がある.しかし,やはり重篤な副作用に関する知識は必要であり,輸血は薬剤ではないが,(最近の薬事法では血液製剤も医薬品らしいが)一般的に薬剤を処方するときには,重篤な副作用については知っておかねばならないことはいうまでもない.
最近,医薬品医療機器総合機構(pharmaceuticals and medical devices agency;PMDA)のホームページから「重篤副作用疾患別対応マニュアル」なるものが提供されており,個々の薬剤について重篤な副作用を調べるだけでなく,逆にどのような症状が出たら,どのような薬剤の副作用の可能性があるかを調べられるようにもなっている1).薬物の副作用は知らないと診断できない.例えば降圧剤としてACE阻害剤を飲んでいる患者の慢性咳そうや,ファモチジンによる無顆粒球症,メトクロプラミドによる錐体外路症状など本来の薬剤の働きからは考えにくい副作用も多くある.
血液製剤による急性の肺障害もそのような反応の1つであり,その機序についての解明も道半ばである.よく知られた輸血によるアレルギー反応とは違い,輸血開始直後に起こるわけではない.時間的には輸血中もしくは輸血後1~2時間くらいで起きてくる副作用であり,ときに数時間後に起こることもあるので因果関係がはっきりしないこともある.時間的な観点からみると輸血による循環血漿量の増加による心不全~肺水腫という病態が起こりうる時期と似ているため,診断は難しい.実際この輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury;TRALI)の概念が一般に広く知られるようになって,日赤に寄せられる副作用報告のなかでTRALI疑いと報告される症例のなかにかなりの確率で循環負荷の症例がある2).もちろん肺障害の起きた結果,低酸素から心機能が低下するという場合もありうるので,一概にすべてを心不全→心原性肺水腫と言い切ることはできないのだが,輸血後に心不全による肺水腫ではない呼吸障害が起きた症例のなかに,TRALIと診断できていなかった症例が今までもあったのかもしれない.
輸血の安全管理というテーマに沿っていえば,輸血はまだまだ安全とは言い難い印象を受ける.たとえABO,Rhなどの血液型が一緒であっても遺伝的にすべてが同一ではない(もちろん一卵性双生児からの輸血は別だが)ので実際起こりうる生体反応がすべて理解できているわけではない.凝集反応だけに限ってみても,クロスマッチは毎回の輸血に必要であるし,たとえクロスマッチ陰性の血液を輸血したとしても,副作用が起きないとは保証できない.輸血の副作用に関しては,今まであまりにも副作用がありすぎたので,軽微な副作用は仕方がないというような雰囲気がある.しかし,やはり重篤な副作用に関する知識は必要であり,輸血は薬剤ではないが,(最近の薬事法では血液製剤も医薬品らしいが)一般的に薬剤を処方するときには,重篤な副作用については知っておかねばならないことはいうまでもない.
最近,医薬品医療機器総合機構(pharmaceuticals and medical devices agency;PMDA)のホームページから「重篤副作用疾患別対応マニュアル」なるものが提供されており,個々の薬剤について重篤な副作用を調べるだけでなく,逆にどのような症状が出たら,どのような薬剤の副作用の可能性があるかを調べられるようにもなっている1).薬物の副作用は知らないと診断できない.例えば降圧剤としてACE阻害剤を飲んでいる患者の慢性咳そうや,ファモチジンによる無顆粒球症,メトクロプラミドによる錐体外路症状など本来の薬剤の働きからは考えにくい副作用も多くある.
血液製剤による急性の肺障害もそのような反応の1つであり,その機序についての解明も道半ばである.よく知られた輸血によるアレルギー反応とは違い,輸血開始直後に起こるわけではない.時間的には輸血中もしくは輸血後1~2時間くらいで起きてくる副作用であり,ときに数時間後に起こることもあるので因果関係がはっきりしないこともある.時間的な観点からみると輸血による循環血漿量の増加による心不全~肺水腫という病態が起こりうる時期と似ているため,診断は難しい.実際この輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury;TRALI)の概念が一般に広く知られるようになって,日赤に寄せられる副作用報告のなかでTRALI疑いと報告される症例のなかにかなりの確率で循環負荷の症例がある2).もちろん肺障害の起きた結果,低酸素から心機能が低下するという場合もありうるので,一概にすべてを心不全→心原性肺水腫と言い切ることはできないのだが,輸血後に心不全による肺水腫ではない呼吸障害が起きた症例のなかに,TRALIと診断できていなかった症例が今までもあったのかもしれない.
参考文献
1) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and medical devices agency:PMDA)医薬品医療機器情報提供ホームページ:重篤副作用疾患別対応マニュアル.http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/juutoku_index.html
2) 日本赤十字社医薬品情報ホームページ:輸血情報0201-68, 0403-81, 0403-82
3) Okazaki H:International Forum, Haemovigilance. Vox Sang 90:225-226, 2006
4) 岡崎仁:輸血関連急性肺障害.日本輸血学会雑誌 52:26-35, 2006
5) Bernard GR, Artigas A, Brigham KL, et al:The American-European Consensus Conference on ARDS. Definitions, mechanisms, relevant outcomes, and clinical trial coordination. Am J Respir Crit Care Med 149:818-824, 1994
6) Kleinman S, Caulfield T, Chan P, et al:Toward an understanding of transfusion-related acute lung injury, statement of a consensus panel. Transfusion 44:1774-1789, 2004
7) 岡崎仁:厚生労働省科学研究費補助金 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業.免疫学的輸血副作用の把握とその対応に関する研究,平成18年度報告書(主任研究者高本滋),pp41-49, 2007
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13) Nishimura M, Hashimoto S, Satake M, et al:Interference with TRALI-causing anti-HLA DR alloantibody induction of human pulmonary microvascular endothelial cell injury by purified soluble HLA DR. Vox Sang 93:78-82, 2007
14) Silliman CC:The two-event model of transfusion-related acute lung injury. Crit Care Med 34(Suppl):S124-S131, 2006
15) Khan SY, Kelher MR, Heal JM, et al:Soluble CD40 ligand accumulates in stored blood components, primes neutrophils through CD40, and is a potential cofactor in the development of transfusion-related acute lung injury. Blood 108:2455-2462, 2006
16) Gajic O, Rana R, Winters JL, et al:Transfusion related acute lung injury in the critically ill:prospective nested case-control study. Am J Resp Crit Care Med, published ahead of print on July 12, 2007
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