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文献詳細

雑誌文献

臨床検査53巻11号

2009年10月発行

文献概要

特集 医療・福祉施設における感染制御と臨床検査 各論 6.感染制御に必要な抗菌薬適正使用の知識

感染制御に必要な抗菌薬適正使用の知識

著者: 三鴨廣繁1 山岸由佳2

所属機関: 1愛知医科大学大学院医学研究科感染制御学 2愛知医科大学病院感染制御学

ページ範囲:P.1490 - P.1494

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はじめに

 日本の感染症医療は,欧米の感染症医療と比較すると,抗菌薬の投与に関して,大きな違いがある.日本では多くの抗菌薬の投与量は,欧米の投与量の1/2~1/5程度と低くなっている.いずれの投与量が適切であるかを判断するためには,臨床比較試験を行うことが望まれるが,日本では比較試験のデータは極めて少なく,適正な抗菌薬の投与量について判断することが困難である.そこで,近年,抗菌薬の臨床効果を薬物の体内動態(pharmacokinetics;PK)と薬効(pharmacodynamics;PD)で評価する手法が確立されつつある.この手法によれば,薬剤低感受性菌や薬剤耐性菌の多い医療関連感染症では,日本の抗菌薬の投与量が欧米に比して少ない傾向にあることが科学的にも明らかにされてきた1)

 もう一つの問題点として,抗菌薬の感受性の評価方法の問題が存在する.従来から,日本で用いられてきた薬剤感受性の評価基準としてのブレイクポイントは,細菌検査室で汎用されている自動同定機器が米国製であることも関連して,米国のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)基準を用いて判定されている.CLSIの基準は,米国の投与量に基づいて決定されているため,日本の抗菌薬投与量での臨床効果が薬剤感受性試験の結果を反映しない可能性がある.

 この問題を解決するためにはpharmacokinetics-pharmacodynamics(PK-PD)より導かれるブレイクポイントを参考に,抗菌薬の投与量を決定することが望ましい2,3).このためには,ブレイクポイントに基づく感受性成績(susceptible-immediate resistant;S-I-R)ではなく,最小発育阻止濃度(minimal inhibitory concentration;MIC)の測定が望ましい.しかし,現状では日本の臨床検査室でMIC値を測定している検査室は必ずしも多くないことも問題点の一つである.

参考文献

1) 宮崎修一,三鴨廣繁,森田邦彦:日常診療に役立つ抗菌薬のPK/PD(戸塚恭一監修).ユニオンエース,pp5-62,2007
2) 三鴨廣繁:抗菌薬のPK/PDデータブック―投与レジメン選択の手引き―注射薬編.ユニオンエース,pp105-121,2007
3) 三鴨廣繁,山岸由佳:重症感染症治療において臨床現場で役立つ究極のエンピリック治療ハンドブック.ユニオンエース,pp2-117,2009
4) 日本感染症学会,日本化学療法学会(編):抗菌薬使用のガイドライン.協和企画,pp2-263,2005
5) 日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会:成人院内肺炎診療ガイドライン.社団法人日本呼吸器学会,pp1-72,2008

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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