文献詳細
文献概要
今月の主題 生体内微量元素 話題
亜鉛と脳機能
著者: 武田厚司1
所属機関: 1静岡県立大学薬学部医薬生命化学分野
ページ範囲:P.197 - P.201
文献購入ページに移動1.はじめに
現在,ヒトに必要な元素として20種類以上が知られており,細胞の増殖・分化・機能に重要な役割をもつ.その中には鉄,亜鉛などの微量元素が含まれている.亜鉛は酵素活性,蛋白質の構造維持に必要であり,300種以上の亜鉛結合蛋白質が知られている.亜鉛は蛋白質の機能を通して遺伝子の複製や発現など細胞機能に関与し,個体の発生ならびに生命活動に重要な役割を担っている.また,フリー亜鉛(亜鉛イオン:Zn2+)は細胞内外において極めて低濃度で存在するが,細胞内Zn2+がシグナル因子として機能することが考えられる.さらに,脳内では亜鉛は神経細胞のシナプス小胞内に存在し,神経伝達調節因子として機能する.すなわち,神経活動に伴い放出されたZn2+がダイナミックに脳機能を調節する.
大脳皮質では多数の皮質領域を結ぶネットワークを介して皮質機能が連合し,思考や記憶などの高次機能を営む.大脳皮質の内側面にある海馬は記憶と関係し,海馬が損傷されると記憶が形成されない重度な前行性健忘症となる.大脳皮質の連合野と海馬のネットワークは記憶に関係する.感情表現など情動行動を司る扁桃体とともに,海馬では亜鉛濃度が他の領域と比べて高い(図1aと1b).また,Timm's染色(Zn2+が染まる)でもこれらの領域が強く染色される(図1c).本稿では,脳の機能ならびに病態を,亜鉛の作用点から実験動物を用いた筆者らの研究成果を踏まえて概説する.
現在,ヒトに必要な元素として20種類以上が知られており,細胞の増殖・分化・機能に重要な役割をもつ.その中には鉄,亜鉛などの微量元素が含まれている.亜鉛は酵素活性,蛋白質の構造維持に必要であり,300種以上の亜鉛結合蛋白質が知られている.亜鉛は蛋白質の機能を通して遺伝子の複製や発現など細胞機能に関与し,個体の発生ならびに生命活動に重要な役割を担っている.また,フリー亜鉛(亜鉛イオン:Zn2+)は細胞内外において極めて低濃度で存在するが,細胞内Zn2+がシグナル因子として機能することが考えられる.さらに,脳内では亜鉛は神経細胞のシナプス小胞内に存在し,神経伝達調節因子として機能する.すなわち,神経活動に伴い放出されたZn2+がダイナミックに脳機能を調節する.
大脳皮質では多数の皮質領域を結ぶネットワークを介して皮質機能が連合し,思考や記憶などの高次機能を営む.大脳皮質の内側面にある海馬は記憶と関係し,海馬が損傷されると記憶が形成されない重度な前行性健忘症となる.大脳皮質の連合野と海馬のネットワークは記憶に関係する.感情表現など情動行動を司る扁桃体とともに,海馬では亜鉛濃度が他の領域と比べて高い(図1aと1b).また,Timm's染色(Zn2+が染まる)でもこれらの領域が強く染色される(図1c).本稿では,脳の機能ならびに病態を,亜鉛の作用点から実験動物を用いた筆者らの研究成果を踏まえて概説する.
参考文献
1) Takeda A:Movement of zinc and its functional significance in the brain. Brain Res Brain Res Rev 34:137-148, 2000
2) 武田厚司:生体微量金属の作用に着目した脳機能解析と脳疾患の予防.薬学雑誌 124:577-585, 2004
3) 武田厚司:中枢神経系における微量金属の生理作用と毒性作用.CLINICAL CALCIUM 14:1223-1227, 2004
4) Minami A, Sakurada N, Fuke S, et al:Inhibition of presynaptic activity by zinc released from mossy fiber terminals during tetanic stimulation. J Neurosci Res 83:167-176, 2006
5) 武田厚司:脳機能と微量元素.Clinical Neuroscience 25:868-869, 2007
6) Takeda A:Involvement of zinc in neuronal death in the hippocampus. Biomed Res Trace Elements 18:204-210, 2007
7) Takeda A, Tamano H, Kan F, et al:Anxiety-like behavior of young rats after 2-week zinc deprivation. Behav Brain Res 177:1-6, 2007
8) Takeda A, Yamada K, Tamano H, et al:Hippocampal calcium dyshomeostasis and long-term potentiation in 2-week zinc deficiency. Neurochem Int 52:241-246, 2008
9) Takeda A, Kanno S, Sakurada N, at al:Attenuation of hippocampal mossy fiber long-term potentiation by low micromolar concentrations of zinc. J Neurosci Res 86:2909-2911, 2008
10) Takeda A, Fuke S, Ando M, et al:Positive modulation of long-term potentiation at hippocampal CA1 synapses by low micromolar concentrations of zinc. Neuroscience, 2008 Oct 11. 〔Epub ahead of priut〕
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