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雑誌詳細

文献概要

今月の主題 -ミクログロブリン-その多様な病因,病態と検査アプローチ 巻頭言

β2-ミクログロブリンに学ぶ臨床検査

著者: 伊藤喜久1

所属機関: 1旭川医科大学臨床検査医学

ページ範囲:P.9 - P.10

 β2-ミクログロブリン(β2-m)は1968年に,尿蛋白研究の先駆者Berggårdによって,Cd中毒症やWilson病など腎尿細管機能異常の患者尿から生成された低分子蛋白質である.最初の報告から半世紀を迎えるが,β2-mほど現在に至るまで豊かな話題を提供し続けている蛋白質はない.今現在のPubMed検索でヒットした原著論文,総説数は実に12,000以上にも及ぶ.基礎研究は構造,物理化学的性状,機能,産生分泌制御,代謝・異化機能にわたり,これらに関連したHLAクラスⅠ抗原関連免疫疾患,透析関連アミロイドーシス,血液疾患,ウイルス感染症,腎尿細管機能障害の病因,病態解明も深く掘りこまれ,気づいてみたら大きな全貌が目の前に広がっていた.そこで本誌として初めて「今月の主題」としてβ2-mを取り上げ,病態生理の視点から最近の基礎,臨床研究の進歩をまとめることにした.

 臨床的な意義として,まず挙げられるのは非特定的血清炎症,腫瘍マーカーである.これは免疫応答細胞,腫瘍細胞の増殖性,活動性を反映した産生分泌増加による.しかしC-reactive protein(CRP)やserum amyloid A(SAA)などとは明らかに異なる病態を背景する動態変化を示す.多発性骨髄腫の予後推定には早くから取り入れられ,本邦でも国際病期分類基準として導入され,骨髄性,リンパ増殖性腫瘍増殖性疾患や前立腺癌などの固形腫瘍などの予後の推定へと有用性が拡大してきた.長期血液透析患者に合併する透析関連アミロイドーシスは,βシート構造を豊富に有する構造特性に基づく.アミロイド線維形成の機序の解明が進められ,除去能に優れた吸着膜などの開発により,発症の抑制,進展の防止が飛躍的に改善されている.イタイイタイ病や水俣病は,重金属よる腎近位尿細管傷害を特徴とする.ここでの尿中β2-mは病態変化の結果を反映するものであるが,メガリンをはじめとするレセプターを介した再吸収異化システムが明らかとなり,生体応答に結びつく新たな意義づけがなされる日も近い.

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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