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今月の主題 -ミクログロブリン-その多様な病因,病態と検査アプローチ 話題
キャピラリー電気泳動法による変形β2-ミクログロブリンの検出
著者: 宇治義則1 本宮善恢1 安東由喜雄2
所属機関: 1熊本大学医学部医学科 2熊本大学大学院病態情報解析学分野
ページ範囲:P.70 - P.74
文献購入ページに移動透析テクノロジーの進歩は20年以上の長期生存と80歳以上の高齢透析を可能としたが,その一方で10万人以上の透析要介護者を抱える新たな社会問題を生み出した.要介護者そう出のほとんどは長期透析症候群と呼ばれる合併症が原因となっており,その最も象徴的かつ重篤な病態が透析アミロイドーシス(dialysis-related amyloidosis;DRA)である.DRAは分子量11,800の低分子蛋白であるβ2-ミクログロブリン(β2-m)を原因蛋白(前駆物質)とするアミロイドーシスである.β2-mは8個のストランド(分子連鎖)とそれぞれのストランドをつなぐループペプタイドが折り畳まれて(folding),全体として球状になっているが,内部は2つのβシート構造からなり,立体構造的に高いアミロイド原性を有している.アミロイドーシスには原因となる固有のアミロイド前駆蛋白があり,正常な立体構造(native)を失い,misfoldingにより立体構造が変化することで発症すると考えられる.
β2-mについては,in vitroでは酸性処理や分断化により立体構造がほぐれてunfoldingし,アミロイド線維形成に至るmisfoldingが確認されている.1997年,Stoppiniら1)は正常では分子表面に露出していないβ2-m-C末端92-99位のペプタイドに対するモノクローナル抗体を用いて,in vitroでβ2-mアミロイド化を抑制することを報告した.さらに2005年,共著者のMotomiya,Andoら2)は透析患者のアミロイド組織が抗C末端モノクローナル抗体で染色されることを報告し,生体のアミロイド組織中のβ2-mには正常な立体構造を失い,C-末端が分子表面に露出したunfolded β2-mが存在することを証明した.また,いまだアミロイド化していない組織でも一部抗C末端抗体で染色されることから,β2-mアミロイド化の前段階としてC-末端のunfoldimgが起こることを明らかにした.
一方,Bellottiら3)は透析患者のアミロイド組織から分離されたβ2-mの一部が正常な立体構造に回復(refolding)することを確認した.これらの事実は生体内でnative β2-mがアミロイドβ2-m化する移行過程にはnative β2-mに戻りうるreversibleなunfolded β2-mが存在することを示唆している.2000年にはHeegaardら4),次いでChitiら5),De Lorenziら6)が相次いでフリーゾーンキャピラリー電気泳動法(capillary electrophoresis;CE)を用いて,精製したβ2-mをnative β2-m(major component)とアミロイド原性を有するnon-native β2-m(minor component)に分離できることを報告し,さらに溶液中で両者は動的平衡状態にあり,CEで分離されるnon-native β2-mは部分的に立体構造がunfoldしたアミロイド化β2-mへの移行過程上の中間体(intermediate β2-m;Ⅰ-β2-m)であることを明らかにした.
最近,筆者ら7)はCEにより血清中β2-mをnative β2-mとⅠ-β2-mに精度よく分析できる方法を開発し透析患者についての知見を得た.本稿ではCEによる血清中変形β2-m(Ⅰ-β2-m)について紹介する.
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