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文献詳細

雑誌文献

臨床検査55巻2号

2011年02月発行

文献概要

今月の主題 腸内細菌叢 話題

漢方薬の作用における腸内細菌叢

著者: 渡辺賢治1

所属機関: 1慶應義塾大学医学部漢方医学センター

ページ範囲:P.188 - P.192

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1. はじめに

 漢方は中国の医学とよく誤解されるが,江戸時代に本邦で,「蘭方」に対して古来の自国の医学を指す言葉として命名された医学であり,「Kampo medicine」と言えば,PubMedのシソーラスにおいても日本の伝統医学と説明されている.医療用漢方製剤は,1967年に4種類認められたのを皮切りに,1976年には41種類となり,徐々に増加し,現在では148種類あり,それとは別に煎じ薬用には200種類の生薬が保険でカバーされている.

 2001年に文部科学省の医学教育モデルカリキュラムに漢方教育が入ったことから,80ある全国の医学部・医科大学において漢方教育がなされるようになり,漢方を日常診療で用いる医師数は83.5%にものぼり,本邦の医療に欠かせない存在となっている.

 しかしながら漢方の臨床研究は,①個別化医療である,②対象が人間全体であり,マルチターゲットであることが多い(例えば漢方の水毒という病態は頭痛,めまい,立ちくらみ,浮腫などを症状として呈し,五苓散などが処方される.水毒が改善されるとこれらの症状が同時に改善される),③患者主観を重んじる医療である,といった理由で,無作為化対照試験(randomized controlled trial;RCT)をはじめとした西洋医学的研究手法が適応しにくいため,こうした複雑系を一度に解析する新しい手法が求められている.

 一方,基礎研究に目を移すと,漢方薬は複数の生薬から構成され,さらに1つ1つの生薬の成分が複雑であることから,単一成分の研究のようには単純でない.さらに,生薬の中の成分が経口内服により,腸内で腸内細菌によって代謝,吸収された後,門脈を通って肝臓でさらに代謝されて,初めて薬効成分になるものもあり,複雑である.

 本稿では,漢方薬の薬効と腸内細菌叢との密接な関係について述べたいと思う.

参考文献

1) Tanahashi T, Mune T, Morita H, et al:Glycyrrhizic acid suppresses type 2 11 beta-hydroxysteroid dehydrogenase expression in vivo. J Steroid Biochem Mol Biol 80:441-447,2002
2) 村松博,森田邦彦,渡辺賢治,他:抗生物質併用投与による漢方薬配糖体成分の体内動態変動とその対策.臨床薬理 34:259-260,2003
3) Kibe R, Sakamoto M, Hayashi H, et al:Maturation of the murine cecal microbiota as revealed by terminal restriction fragment length polymorphism and 16S rRNA gene clone libraries. FEMS Microbiol Lett 235:139-146,2004
4) Imazu Y, Sugiyama K, Benno Y, et al:Juzentaihoto reduces post-partial hepatectomy hyperammonemia by stabilizing intestinal microbiota. J Trad Med 23:208-215,2006
5) 渡辺賢治,金成俊,鈴木邦彦,他:乳児皮疹に対する経母乳的漢方治療,日本東洋医学会雑誌 49:851-859,1999
6) Kato M, Kibe R, Benno Y, et al:Effect of herbal medicine Juzentaihoto on hepatic and intestinal heat shock gene expression requires intestinal microflora in mouse. World J Gastroenterol 13:2289-2297,2007

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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