文献詳細
文献概要
表紙の裏話
卵を目指す精子
著者: 稲葉一男1
所属機関: 1筑波大学下田臨海実験センター
ページ範囲:P.472 - P.472
文献購入ページに移動 精子はDNAが固く織り込まれた頭(頭部),運動のためのエネルギーであるアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate;ATP)を生産するミトコンドリアが含まれる中片部,そして運動のための器官であるしっぽ(尾部,鞭毛)からなる遊離細胞である.ヒトの体の中では,体外で重要な使命を果たす唯一の細胞である.最近では,鞭毛の解糖系で生産されるATPが運動のエネルギーとして重要であることもわかっている.鞭毛ではATPを使って屈曲運動のための力が発生するが,この力の発生を担っているのが分子モーター“ダイニン”である.ダイニンは精子の運動のほか,気管支や卵管に生えている繊毛の運動も担っているため,遺伝的にダイニンに異常があると,男性不妊だけでなく,排卵異常や慢性の気管支炎を引き起こすことが知られている.これらは“繊毛病”とも呼ばれる.
さて,精子が方向性もなくランダムに動いていては,効率よく卵に達することができない.ヒトを含め,多くの動物において,精子が卵に向かって運動する“走化性”という現象が知られている.卵あるいは雌性生殖器から,精子の運動性を変化させる物質(走化性物質)が放出され,その濃度勾配に反応して精子が卵に向かって運動する.言い換えれば,精子は卵にたどり着く長い道のりを,走化性物質の勾配に誘導されて進んでいくとも言える.
さて,精子が方向性もなくランダムに動いていては,効率よく卵に達することができない.ヒトを含め,多くの動物において,精子が卵に向かって運動する“走化性”という現象が知られている.卵あるいは雌性生殖器から,精子の運動性を変化させる物質(走化性物質)が放出され,その濃度勾配に反応して精子が卵に向かって運動する.言い換えれば,精子は卵にたどり着く長い道のりを,走化性物質の勾配に誘導されて進んでいくとも言える.
掲載誌情報