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文献詳細

雑誌文献

臨床検査60巻7号

2016年07月発行

文献概要

寄生虫屋が語るよもやま話・7

先生,実習が始まります!—糞線虫症

著者: 太田伸生1

所属機関: 1東京医科歯科大学大学院・国際環境寄生虫病学分野

ページ範囲:P.796 - P.797

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 糞線虫という寄生虫がある.学名であるから仕方がないが,あまり奇麗な名前ではない.動植物の学名の命名者の多くは理科系の人間だからか,デリカシーに乏しいのかもしれない.2015年のノーベル医学・生理学賞の受賞対象にもなったマラリアの特効薬であるアーテメーターであるが,その材料になる植物の学名もクソニンジンと,ご本人(?)には大変気の毒である.糞線虫というが,名前と違って美しい外観の虫で,私たちの業界にも根強いファンがいるし,研究室の妙齢の美女先生の研究テーマでもある.彼女が二言目には“フンセンチュウが,……”と語り始めるので,上司としては縁談に差し支えることを少しだけ懸念している.人間の体内にいる糞線虫は全部雌である.その生殖のからくりには不明の点も多く,くだんの美女先生の研究テーマである.ご本人は日がな雌虫ばかり相手にしているとますます縁遠いかとも思うが,それをいえばセクハラと訴えられるのもこの時勢で,用心には余念がない.

 小さくて美しい糞線虫であるが,臨床医学的にはやや面倒なことを起こす.寄生線虫の仲間は原則としてヒト体内では増殖しない.糞線虫は人間の小腸で幼虫を産み,通常はそのまま糞とともに体外に出ていく(図).しかし,人間の側が少しだけ体調がすぐれない場合はそのまま体内にとどまって発育し,成虫になる.自家感染といわれる現象である.その結果,一度感染するとエンドレスに人間の小腸の中に居座り,何十年にわたって家主と交友関係が持続することが多い.免疫状態が低下した人では自家感染の程度が特に激しくなり,体中に糞線虫が充満する播種性糞線虫症も起こってくる.喀痰にも幼虫がたくさん排出されるなど,場合によっては致命的である.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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