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文献詳細

雑誌文献

臨床検査60巻8号

2016年08月発行

文献概要

寄生虫屋が語るよもやま話・8

屈強なアフリカの青年も嫌がる恐怖の検査法—オンコセルカ症

著者: 太田伸生1

所属機関: 1東京医科歯科大学大学院・国際環境寄生虫病学分野

ページ範囲:P.922 - P.923

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 2015年のノーベル医学・生理学賞を受賞された大村智先生の功績が,フィラリア症の特効薬を開発されたことであるのは,読者諸姉兄ならばよくご承知のことと思う.イベルメクチンである.すごい薬で,フィラリアだけでなく疥癬や前号で取り上げた糞線虫にも著効を示す.また,幼虫移行症にも効果があり,抗寄生虫薬のスーパースターといった感さえある.実はこの薬,大村先生が発見されたときに提携をしていた巨大製薬企業メルクでは,商売にならないと商品化にストップがかかったそうであるが,企業家の収益見通しに従っていたら多くのフィラリアは救われていた(?)ということもいえるかと,寄生虫屋として妙なことも考えた.

 そのイベルメクチンが大いに威力を発揮したのがアフリカのオンコセルカ症対策である.回旋糸状虫というのが和名である.同じフィラリアでもバンクロフト糸状虫と違って成虫は皮下組織に寄生していて,ミクロフィラリアという幼虫が組織中を徘徊する.最も悲惨な症状はミクロフィラリアが眼球に至って失明をもたらすことである.このフィラリアはブユが媒介する.ブユはきれいな水で繁殖する昆虫であるが,アフリカのサバンナ地帯では,河川流域で発生し,そこでオンコセルカ症が多発する.河川盲目症という名前の由来である.乾燥したサバンナ地区でも河川沿いでは農業耕作が可能なのだが,そこにはブユがいて,オンコセルカ症がまん延するために農地を放棄せざるを得ない.筆者もニジェールの乾燥地域をとうとうと流れる大河ニジェール川を見てきたことがあるが,水も土地もあるのに耕作できない現実に言葉がなかった.大村先生のイベルメクチンのおかげで,その地域のオンコセルカ症の流行状況は大幅に改善している.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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