GL急性腹症診療ガイドライン2015
治療のポイント
・消化器系疾患以外にも心血管系疾患,尿路系疾患,産婦人科疾患の可能性も念頭においた診断を行う.
・バイタルサインに異常がある場合は緊急的に治療介入が必要な病態と判断し,必要な救急処置を開始する.
・バイタルサインに異常を認めない場合でも,腹痛の部位や性状,病歴,血液検査,画像診断などを総合して迅速に診断を行い,急性腹症と診断した場合には準緊急的に治療介入を行う.
◆病態と診断
A病態
・腹痛の多くは腹腔内臓器に起因する疼痛であるが,腹腔外臓器である腎・尿管・大動脈などの後腹膜臓器,肺や心臓・食道などの胸腔・縦隔臓器も原因となりうる.
・急性冠症候群,大動脈瘤破裂,大動脈解離,内臓動脈瘤破裂などの心血管系疾患が原因の場合,急性進行性の病態を呈し,診断・治療の遅れが予後に直接影響する.
・筋性防御や筋強直,反跳痛などの腹膜刺激症状(徴候)は,感染や出血,消化液曝露による化学的刺激などによって腹膜に炎症が波及することで出現する症状である.臓器周囲のみに影響が及ぶ限局性腹膜炎では触診にて原因臓器を特定しやすいが,炎症が腹腔内に広く拡大した汎発性腹膜炎では原因臓器や疾患の診断には画像診断が有用である.
B診断
・図に示すように突発性腹痛患者の診療においては,バイタルサインに異常がない場合は通常の診断過程を進めるが,異常がある場合には救命救急処置が可能な体制を整える.
1.バイタルサインに異常がない場合
・腹痛の部位・性状,随伴症状,病歴聴取などから可能性の高い疾患を類推する.さらに,丁寧な触診を行い正確な腹痛部位と範囲,腹水の有無,腹膜刺激症状の有無などから急性腹症を鑑別する.
・血液検査としてCRPや血液凝固能を含めた緊急検査セットをオーダーする.異所性妊娠を疑う場合は妊娠反応検査を含める.尿路系疾患の鑑別のため尿検査を加える.腹膜炎を呈している場合,腸管