今日の診療
治療指針

癌に伴う循環器疾患
cardiotoxicity with cancer therapy
竹石恭知
(福島県立医科大学附属病院・病院長)

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治療のポイント

・がんの種類や予後,合併症の有無などを評価し,がん治療医と協議しながら診療を進めていく.

・がん治療を開始する前に循環器疾患合併のリスクを評価し,それに応じた適切なモニタリングが必要である.

◆病態と診断

A病態

・心機能障害および心不全を呈する抗がん剤には,アントラサイクリン系抗がん剤やHER2阻害薬,チロシンキナーゼ阻害薬,プロテアソーム阻害薬などが挙げられる.

・アントラサイクリン系抗がん剤はトポイソメラーゼⅡβの阻害によりDNA損傷をきたし,酸化ストレスとミトコンドリア機能障害を介して心筋細胞死を誘導する.心機能障害は不可逆的で用量依存性があるとされてきたが,早期に発見・治療することで心機能の回復が期待できる例もある.

・HER2阻害薬による心機能障害は可逆的で非用量依存性である.

・心筋炎は,免疫チェックポイント阻害薬による過剰な自己免疫反応によって引き起こされる免疫関連有害事象(irAE:immune-related adverse events)の1つである.発症頻度は0.1%程度とまれであるが,発症した場合の死亡率は40%程度と高い.

・冠動脈疾患は,フルオロピリミジン系抗がん剤や白金製剤,抗血管内皮増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)阻害薬などで発症する.また,乳がんや食道がんなどに対する過去の縦隔への放射線治療も原因となる.

・高血圧は,抗VEGF阻害薬やマルチキナーゼ阻害薬によって,血管内皮細胞における一酸化窒素などの血管拡張物質の産生を促すVEGFが阻害されることで発症する.

・不整脈をきたす抗がん剤は多数存在する.心房細動はフルオロウラシルやシスプラチン,アントラサイクリン系抗がん剤,徐脈性不整脈はサリドマイド,パクリタキセルで発症しやすい.QT延長はチロシンキナーゼ阻害薬などで生じる.

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