今日の診療
治療指針

腸管癒着症
intestinal adhesion
須並英二
(杏林大学主任教授・消化器一般外科)

治療のポイント

・腸管癒着症を生じうる既往を念頭においた病歴の聴取,腹部所見,画像診断などから総合的に診断を行うが,その多彩な症状のなかでも腸閉塞など緊急を要する病態に注意する.

・保存的に治療不可能な腸管癒着による腸閉塞は手術の絶対適応となるが,繰り返す腸閉塞などは相対適応となるので,有用性,合併症などを勘案し外科的治療を考慮する.

・開腹術後の癒着はすべて腸管癒着症を呈するわけではなく,その完全な予防策はないが,手術中から周術期にかけて可及的に癒着を予防する対策を講じる.

◆病態と診断

A病態

・腸管癒着症は,腹腔内に何らかの原因で起こった炎症とその治癒過程に生じる線維組織形成により,腸管と腸管あるいは他臓器腹膜などに癒着が生じ,それによる腸管の屈曲,牽引,狭窄などにより消化管運動機能障害が引き起こされ,腹部症状を呈するに至った状態である.

・腹腔内で癒着が形成される原因としては,腹部外科手術,放射線照射などの医原性の病態,腹部外傷,腹腔内炎症,腹腔内感染症などによる腹膜炎,腹膜播種など悪性新生物,などのさまざまな病態,疾患が挙げられる.

・癒着の生じるメカニズムとしては血液凝固系の関与が提唱されており,傷害部に析出したフィブリンの溶解・吸収不良が線維芽細胞の増殖,線維化に繋がり,癒着が形成されるとされている.

・腹部手術後の癒着は,その90%以上に生じるとされ,腸閉塞で入院を要した症例の60%以上は癒着性である.

B診断

・腸管癒着症では,慢性時には(間欠的な)腹痛,腹部膨満感,悪心,嘔吐,食欲不振,排便習慣の変化(下痢,便秘),など非特異的で多種多様な症状を認めうる.既往歴,症状,画像所見などから総合的に判断することになるが,診断に苦慮することも多い.

・既往歴としては,開腹手術とその原因疾患および術式,悪性疾患があればその時期と進行度および治療内容(放射線治療の有無),虫垂炎や憩室炎など

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