今日の診療
治療指針

造血幹細胞移植(適応と方法)
hematopoietic stem cell transplantation(HSCT)
田中淳司
(東京女子医科大学教授・血液内科)

 造血幹細胞移植療法は白血病をはじめとする主に血液悪性疾患に対する根治的治療法として広く行われている.造血幹細胞移植には自分の造血幹細胞を移植する自家造血幹細胞移植と,兄弟姉妹などの血縁者あるいは非血縁者から造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植がある.

 自家造血幹細胞移植は主に悪性リンパ腫や多発性骨髄腫患者自身の造血幹細胞を保存しておいて大量の抗癌剤投与のあとに移植する.患者自身の造血幹細胞を用いるため免疫反応は基本的に誘導されず,大量の抗癌剤投与による造血抑制をレスキューする目的で造血幹細胞を移植する.このため安全性は高いが再発が多い傾向にある.

 一方,同種造血幹細胞移植は兄弟姉妹を含めた非自己から造血幹細胞を移植するので,同種免疫反応が誘導される.期待される免疫反応は,移植したドナーの免疫担当細胞が患者の腫瘍細胞を非自己と認識して攻撃してくれる移植片対白血病/腫瘍効果(GVL/T:graft-versus-leukemia/tumor)とよばれる免疫反応である.反対に副作用としては患者の正常細胞を非自己と認識して攻撃する移植片対宿主病(GVHD:graft-versus-host disease)とよばれる免疫反応がある.同種造血幹細胞移植の場合にはいかにして移植片対腫瘍効果を最大限に誘導し,GVHDを抑制するかが移植の成否を決めることになる.したがって,同種造血幹細胞移植は治療効果が高く根治性があるが,副作用が多い傾向にある.

 日本造血細胞移植データセンターによると,2019年に本邦で施行された全造血幹細胞移植は5,860例,自家移植は2,112例,血縁者間骨髄移植(Allo BMT:allogeneic bone marrow transplantation)は246例,血縁者間末梢血幹細胞移植(Allo PBSCT:allogeneic peripheral b

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?