今日の診療
治療指針

神経・筋疾患 最近の動向
下畑享良
(岐阜大学大学院教授・脳神経内科学)

A治療

1.片頭痛

 片頭痛の病態において,三叉神経終末から放出される神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP:calcitonin gene-related peptide)が重要な役割を果たす可能性が指摘されていた(→図解).片頭痛発作時に三叉神経節や硬膜において,CGRP放出が増加する.これらの部位は血液脳関門を欠くため,血液脳関門を通過しない抗体薬による治療が可能となる.ガルカネズマブ(エムガルティ皮下注),フレマネズマブ(アジョビ皮下注),エレヌマブ(アイモビーグ皮下注)は,CGRPないしその受容体に特異的に結合し,生理活性を阻害することで片頭痛発作を抑制するモノクローナル抗体である.国内外の臨床試験から有効性および安全性が検証された.適応は「片頭痛発作の発症抑制」,すなわち片頭痛の予防薬であり,反復性片頭痛および慢性片頭痛の両者に有効である.さらに急性期治療薬として低分子のセロトニン(5-HT)1F 受容体作動薬であるラスミジタンコハク酸塩(レイボー錠)が,2022年1月,国内製造販売承認された.5-HT1F 受容体は三叉神経系の神経細胞に発現しているが,本剤は5-HT1F 受容体を刺激することで,三叉神経系の過活動を抑制し,三叉神経からのCGRPの放出を抑制する.トリプタンとは異なり血管収縮作用がない.

2.多発性硬化症

 多発性硬化症(MS:multiple sclerosis)は,臨床経過により再発寛解型(RRMS:relapsing-remitting MS),二次性進行型(SPMS:secondary progressive MS),一次性進行型(PPMS:primary progressive MS)の3病型に分類され,MS患者の約85%がRRMSである.そのうち約半数が再発とは無関係に障害が進行するSPMSへ移行するといわれているが,S

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