今日の診療
治療指針

器質性精神障害
organic mental disorder
高橋英彦
(東京医科歯科大学大学院教授・精神行動医科学)

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治療のポイント

・脳器質因の治療をまず優先する.

・急性期には精神症状の背景に意識障害があるかどうかを見極める.

・慢性期には社会機能の低下の要因となる症状と生活上の具体的な困難を同定し,環境調整や対応するスキルの獲得をはかる.

・症状の消失が目標ではなく,上記支援を行う際の補助として薬物療法を行う.

◆病態と診断

A病態

・脳に限定した疾病過程が明らかな外因(脳器質因)によって生じる.

・本項では,脳器質因として頭部外傷,脳血管障害,および脳腫瘍などを想定する.

・脳器質因による,正常な精神活動を制御する神経回路網の障害がその神経基盤として想定されている.

B診断

・精神症状の背景に脳器質因が存在する可能性を常に考慮する.

・精神症状の出現と時間的関連のある脳器質因の存在,または現在の精神症状との関連が指摘されている特定の脳領域の損傷が認められる場合に,器質性精神障害を念頭におく.

・急性期~亜急性期は意識障害に随伴する非特異的かつ多彩な症状がみられる.

・意識障害の診断には注意障害の有無を確認することが有用である.

・慢性期は損傷部位に対応した特異的かつ限局した症状がみられる(=後遺症).

◆治療方針

 治療の原則は,脳器質因を治療し,除去することであるが,実際には除去できないことが多い.向精神薬は急性期には脳器質因の治療遂行の補助として,慢性期には社会的支援遂行の補助として検討される.

A薬物療法

 本邦では器質性精神障害に対する薬物療法の適応はない.そのため,限定した提案となることを容赦いただきたい.

1.急性期~亜急性期

a.せん妄(意識障害)

 抗精神病薬であるクエチアピンは頭部外傷後せん妄に関連する症状の早期回復,興奮エピソードの減少,在宅またはリハビリテーションへの移行率の向上をもたらす可能性が指摘されているが,糖尿病患者への使用は禁忌である.また,抗てんかん薬であるバルプロ酸ナトリウム

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