今日の診療
治療指針

急性放射線障害
acute radiation injury(ARI)
永見範幸
(佐賀大学医学部附属病院・放射線部副技師長)

ニュートピックス

・電離放射線障害防止規則(以下「電離則」)が改正され,2021年4月1日から施行・適用された.主な改正点は,放射線業務従事者の眼の水晶体に受ける等価線量限度の引下げである.改正前は,「1年間につき150ミリシーベルト以下」とされていたが,改正後は「5年間平均で年間20ミリシーベルト以下かついずれの1年においても50ミリシーベルトを超えない」へと変更になった.

・電離則改正の基となった2011年4月の国際放射線防護委員会(ICRP)主委員会会合におけるソウル声明において,放射線による白内障の標的細胞は増殖帯の水晶体上皮細胞(実効深度3mm)であるという科学的根拠に基づき,ICRPのチェルノブイリ原発事故などの最新の疫学調査の知見を踏まえ,視覚障害性白内障のしきい線量を0.5グレイとした.

・シーベルトは人体への放射線による影響を評価する単位であり,エネルギー量を表す単位のグレイから換算される.

治療のポイント

・急性放射線障害においては,被曝線量の評価およびしきい値が定められている確定的影響(組織反応)を考慮した治療が予後に重要である.

・外傷を伴う放射線被曝患者の治療では,状態に応じて被曝診療の前に救命診療が優先される.

◆病態と診断

A病態

・急性放射線障害の前駆症状として,被曝後48時間以内の嘔吐,発熱,下痢,頭痛,意識障害,唾液腺の腫脹と疼痛が挙げられる.

・全身被曝か局所被曝かにより身体への影響が異なる.放射線に曝された領域にのみ影響が出現する.

・前駆症状の確認のほかに,バイタルサイン取得や心電図検査の実施も重要である.

B診断

・急性放射線障害を診断するのに最も有用な検査は,末梢血リンパ球数の計測である.前駆期においても,0.5~0.6グレイ以上の全身被曝があれば,末梢血リンパ球数の減少が認められる.

・事故などの原子力災害による被曝では,「外部被曝」と「内部被曝」に分け

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