◆病態と診断
A機内環境の特殊性と医療上のリスク
・商用ジェット機の機内は地上に比べ,気圧が低く相対湿度も低いため,呼吸器疾患・循環器疾患をもつ乗客には,低酸素血症・喀痰排出困難などのリスクがある.また,低圧環境下では閉鎖空間の気体が膨張するため,耳鼻科疾患や歯科疾患,消化器疾患が悪化する可能性もある.さらに,長時間の着座による深部静脈血栓症や,閉鎖空間に由来する精神症状の悪化,機内で提供されるアルコール飲料による酩酊や暴力行為なども報告されている.
B機内で発生する医療緊急事態の頻度と症状の内訳
・機内で医師が要請されるような医療上の緊急事態が発生する割合は,おおむね600フライトに1回程度とされている(N Engl J Med 368:2075-2083,2013).
・医師が招集される原因となる症状は,失神・呼吸困難・消化器症状などが多く,心停止は0.3~0.7%と非常にまれである.(JAMA