診療支援
治療

乳腺腫瘤の診察手順
diagnostic procedures for breast lump
武山 浩
(東京慈恵会医科大学教授・乳腺・甲状腺・内分泌外科)

 乳腺は体表の臓器であり,視触診は本人でも容易である.このため腫瘤に限らず乳腺全体の張り,皮膚の変化,触診時疼痛などさまざまな症状を自覚し来院する例も多い.本邦では乳癌患者数はいまだ増加しており,多種多様な症状から乳癌を診断する手順は重要である.

A問診

1.月経の有無

 乳腺の疼痛,腫脹はほとんどが月経周期における女性ホルモンの分泌量変化に伴う,いわゆる乳腺症が原因であることが多い.また乳癌の治療法が閉経前,閉経後で異なるため確認が必要である.

2.家族歴

 本邦の遺伝性乳癌-卵巣癌(HBOC:hereditary breast and ovarian cancer)症候群の頻度は女性では全乳癌症例の約4~5%,男性では15~20%存在する.可能であれば3世代間での乳癌,卵巣癌,膵臓癌の有無と発症年齢を確認する.

3.健診履歴

 最近(例えば1年前)の健診結果を聞くことは診察の補助となる.

4.既往歴

 過去の乳腺疾患や外科処置の有無,出産,授乳歴などの確認は,脂肪壊死,異物性肉芽腫や乳瘤などの腫瘤鑑別に有用である.

5.自覚症状

 腫瘤や疼痛の有無とその存在位置を確認し,腫瘤が存在する場合は可動性の有無,周囲皮膚発赤の有無,自覚してから増大傾向があったかを確認する.

 また腫瘤がない場合でもパジェット病や非浸潤癌を鑑別するため,乳頭付近の皮膚の状態,乳頭血性分泌物の有無を確認する.

6.薬剤使用の有無

 月経困難症などによるピルの使用や,子宮筋腫などによるLH-RHアゴニストの使用により乳腺の状態は変化をきたすため,服用確認は必要である.

B視触診

 ほとんどの症例が女性であるため,プライバシーに配慮して診察を行うことが必要である.特に視触診に際しては医師だけでなく看護師の立ち合いが望ましい.

1.視診

 乳腺の左右差,皮膚の発赤・陥凹・瘻孔の有無,乳頭付近の陥凹・びらん・潰瘍,乳頭牽引の有無などを確認す

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