診療支援
治療

妊産婦精神疾患
mental disorders in perinatal period
平島奈津子
(国際医療福祉大学三田病院精神科・病院教授)

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治療のポイント

・母体薬剤が原因の先天異常は,先天異常の発生率全体(約3%)に比して少ない.

・治療(特に薬物療法)の方針は,最新の情報を参照しつつ,リスクとベネフィット,あるいは患者や家族のニーズを共有し,シェアード・ディシジョン・メイキングで決定する.

◆病態と診断

A病態

・妊娠中は内分泌の変動,あるいは夜間頻尿や背腰部痛,胎児の体動,こむら返りや鉄欠乏性貧血によるレストレスレッグス症候群などによって,夜間の睡眠が妨げられやすい.

・周産期は精神疾患の発症や再発が少なくなく,例えば周産期におけるうつ病の有病率は約15%,何らかの不安症の有病率は約20%である.

・精神疾患の既往例では,周産期における服薬中断によって再発する例が少なくない.

産後うつ病と診断された約半数は,すでに妊娠中にうつ病が発症している.

・産後の女性は孤立しやすく,そのため,なかには発見が遅れて重症化し,児を道連れにした自殺企図に至る例もある.

・比較的まれだが,産後数週以内に幻覚,妄想,情動不安定などが急性発症することがある.その予後はおおむね良好だが,双極症に移行する例もある.

B診断

・精神症状に気づく手がかりは,普段のその人らしさが失われていないか,普段できていたことができなくなっていないか,などの変化への着目である.

・診断は他の時期の各精神疾患と同様だが,訴えは育児,あるいは職業人や母(女性)としての自分自身をめぐる内容が前景となる.

◆治療方針

 治療方針はシェアード・ディシジョン・メイキングで決定し,適宜,更新する.まず,(診断告知を含む)心理教育を行ったうえで,重症度や緊急度に応じて外来または入院治療の別や,精神療法(支持的精神療法・認知行動療法・対人関係療法・精神力動的精神療法・家族療法など),薬物療法,電気けいれん療法などの治療を選択する.それぞれの治療は併用することもあり,家族環境の調整

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