頻度 よくみる
治療のポイント
・緊急性,重症度,患者の希望・意向を考慮し,身体状態,うつ病重症度,療養生活環境,治療アクセスによって,心理療法や薬物療法は選択される.
・本項ではがん患者の精神医学的問題として最も重要なうつ病について述べる.
◆病態と診断
A病態
・がん告知や再発といった死や喪失を連想させる衝撃的な出来事に引き続いて起こることが多い.
・病態は,ストレス-脆弱モデルで理解できる,喪失に対する反応性の抑うつ状態が多い.
・がんに起因する症状が修飾する(侵襲痛,サイトカインによる倦怠感など).
・がん治療に起因する有害事象が病態に重畳する(抗がん剤によるしびれ・倦怠感,術後創痛など).
B診断
・ICD-11や米国精神医学会編DSM-5-TRのうつ病診断基準を用いる.
・①抑うつ気分,②興味・喜びの低下のうち1つを必須とし,以下の症状項目を合わせて5項目以上が同時に2週間以上ほとんど毎日持続した場合に診断する.③食欲低下(亢進)/体重減少(増加),④不眠(過眠),⑤焦燥感・精神運動制止,⑥易疲労感・気力低下,⑦罪責感・無価値感,⑧思考・集中力低下/決断困難,⑨希死念慮.
1.注意点
・家族の面会時に笑顔が消えた,ひきこもる,治療遵守できない,早死を願う,希死念慮がある場合,「がんだから仕方がない」と理解して診断閾値を低く設定したくなるが,診断基準を満たせば見過ごすデメリットよりは診断するメリットが優先される.
2.鑑別診断
・痛み,しびれ,嘔気,倦怠感,脳器質症候群,せん妄,他の精神疾患,薬の副作用.
◆治療方針
うつ病治療の目的は,がん治療目標・治療計画を考慮に入れ,患者の意向や価値観を踏まえ,①短期的にはがん治療完遂,②長期的にはがん初期治療後の新しい生活への適応とする.
軽症の場合(診断に必要最低限な5つないし6つの症状を有する)は,心理療法もしくは緩和精神安定薬を,中等症以上の場合は抗