診療支援
治療

産婦人科疾患 最近の動向
木村 正
(大阪大学大学院教授・産科学婦人科学)

A出生前検査に関する新しい動き

 出生前検査は,その行為の生命倫理的特性から,常に大きな議論を世の中に巻き起こしてきた.2013年に日本にnon-invasive prenatal test(NIPT:非侵襲性出生前遺伝学的検査)が導入されるに際し,この検査の対象がトリソミー(T)21(ダウン症),18(エドワーズ症候群),13(パトウ症候群)であり,採血だけで検査結果(非確定結果)を得られること,感度・特異度がT21に対して99%を超える精度が高いものであること,妊娠出産に全くかかわらない医師でも可能なこと,などから日本産科婦人科学会(日産婦)が「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」を策定.続いて日本医学会が共同声明を出し,日本医学会が実施施設の登録・認定を行うこととなった.このときから重視されたのは検査前のカウンセリング,すなわち患者への情報提示であった.しかし,その後,カウンセリングなどを行わず(行う知識もなく)採血だけ行い,結果だけを返して説明しない「無認定」医療機関が多数出現し,妊婦の不安をあおる形で受検者を集め,その受検者は認定機関を上回る,と推察された.この状態を憂慮した日産婦は新たな指針を策定したが諸学会でさまざまな議論が巻き起こり,厚生労働省が日産婦に対し中止を勧告し,厚生科学審議会のなかに「NIPT等の出生前検査に関する専門委員会」を設置し,幅広い議論が行われた.出生前検査には羊水検査や絨毛検査という直接検体を採取する方法や,超音波断層法による胎児の形態的検査も含まれ,これらも含めて広汎な議論がなされた.2023年2月の報告書1) によると,さまざまな背景やリプロダクティブヘルス・ライツの考え方も理解しながら,1999年,母体血清マーカー検査で生じた混乱から取りまとめられた「医師は妊婦に対して本検査の情報を積極的に知らせる必要はない」との厚

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