頻度 あまりみない
治療のポイント
・臨床的羊水塞栓症と判断される場合,母体救命のためにすみやかにマンパワーの確保に努め,産科危機的出血の宣言を行い,初期対応を行う.
・初期対応として,輸血・凝固因子補充・凝固抑制・線溶抑制などを行う.
◆病態と診断
A病態
・羊水塞栓症は,胸痛・呼吸苦・意識消失などを分娩前後に突如発症し,急速にDICと呼吸循環不全が進行し心停止に至る「心肺虚脱型羊水塞栓症」と,胎盤娩出後の出血が非凝固性となり急激にDICが進行し,弛緩出血により産科危機的出血をきたす「子宮型羊水塞栓症」の2つの病態に分類される.
・羊水を主原因としたアナフィラクトイド反応が起こることが主原因であり,これによって難治性の子宮弛緩や重症呼吸循環不全を発症する.
B診断
・羊水塞栓症の最終診断は,肺または子宮の病理学的診断となるが,迅速な診断が必要であるため,一般的には臨床的羊水塞栓症の診断基準が用いられる.
・臨床的羊水塞栓症は,(1)妊娠中または分娩後12時間以内に発症した場合,(2)以下の①~④に示す症状・疾患(1つ以上)に対して集中的な医学治療が行われた場合〔①心停止,②呼吸不全,③DIC,④分娩後2時間以内の原因不明の大量出血(1,500mL以上)〕,(3)観察された所見や症状が他の疾患で説明できない場合,の3項目を満たす場合に診断される.
◆治療方針
羊水塞栓症は母体死亡に直結する病態であり,きわめて迅速な対応が要求されるため,まずはマンパワーの確保を可及的すみやかに行うことが肝要である.一次施設の場合はすみやかに高次施設へ搬送する.心肺虚脱型では呼吸管理による酸素化の改善,子宮型では子宮双手圧迫やオキシトシン,麦角剤などの投与を行い,すみやかに輸血の準備を行う.また,凝固抑制のためにウリナスタチン,線溶抑制のためトラネキサム酸の投与を行う.これらの治療を行ったのちも止血が得られない場合