診療支援
治療

分子標的治療薬による皮膚障害
Cutaneous adverse events caused by molecular targeted therapy
藤山 幹子
(四国がんセンター部長)

病態

 特定の分子を標的とする薬剤を分子標的治療薬という.慢性炎症性疾患や,悪性腫瘍の治療に用いられる.細胞内シグナルにかかわる分子の働きを抑制する小分子化合物と,サイトカインや増殖因子,それらのレセプターに結合して働きを抑制したり,特定の細胞に発現する分子に結合して機能を制御したり細胞死に至らしめる生物学的製剤がある.このうち,特にT細胞活性化の抑制システムにかかわる分子を標的として阻害する薬剤を免疫チェックポイント阻害薬という.分子標的治療薬が皮膚の細胞や組織に作用して生じる皮膚症状は治療を受ける多くの人に生じるが,免疫系に作用するために生じる皮膚障害は個々の素因にも左右され,発現の頻度はさまざまである.薬剤が原因となり生じる皮疹であるが,多彩な皮膚症状であるため薬疹というより皮膚障害というほうが適切かもしれない.


診断

1.上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害薬(表18-5)

 皮膚の上皮系細胞の増殖分化にかかわる分子を抑制するため,多くの人に皮膚障害を生じる.抗腫瘍効果と皮膚障害が相関することが知られている.チロシンキナーゼ阻害作用を示す小分子化合物の内服薬に比べ,レセプターに結合する抗体製剤のほうが皮膚障害を強く生じる.痤瘡様皮疹,爪囲炎,乾燥皮膚が代表的な皮膚障害であり,治療開始後1~2週目に痤瘡様皮疹が出現し,1か月以降に爪囲炎,乾燥皮膚を生じてくる.①痤瘡様皮疹:顔面,頭部,胸部,上背部などの脂漏皮膚において,毛孔一致性赤色丘疹として認められる.角栓を認めず,痂皮を形成して出血しやすい.チロシンキナーゼ阻害薬では治療開始後1か月を過ぎると症状が軽減してくる.抗体製剤では点滴の数日後に悪化することを繰り返すが,それも徐々に軽減してくる.発症後1か月を過ぎて急激に悪化する場合や,治療を行っても徐々に増悪する場合には,多くが黄色ブドウ球菌の感染を生じている.②爪囲炎:足に

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