診療支援
治療

癤(せつ),癤腫症,癰(よう)
Furuncle,Furunculosis,Carbuncle
井上 卓也
(佐賀大学准教授)

病態

 毛包を場とした細菌感染症.毛孔より細菌が侵入し,感染することによって発症する.毛包炎は,毛包漏斗部までの表層に限局した炎症であるが,毛包深部まで炎症が及んだ状態を癤とよぶ.癤が繰り返し多発する病態を癤腫症とよび,隣り合う複数の毛包に炎症が及んだ状態を癰とよぶ.糖尿病や内臓悪性腫瘍などの免疫低下患者に繰り返し多発性に癤が生じる状態を癤腫症とよぶ.

【臨床症状】後頸部,顔面,臀部などに好発する.毛孔一致性の紅色丘疹として生じ,次第に紅斑が拡大して腫脹してくる.毛孔部を炎症の主座とした毛包炎として初発し,炎症が毛包深部にまで及ぶことで発症する.自発痛,圧痛を伴い,毛孔部に一致して膿疱が出現し,波動を伴うこともある.自壊排膿すると症状が軽快することが多い.臀部などに繰り返し多発することがあり,癤腫症とよび,糖尿病や透析患者,内臓悪性腫瘍などの免疫低下患者に多い.癰では,項部や臀部などに隣接する複数の毛孔一致性の膿疱を伴う大型隆起性局面を形成し,発熱・全身倦怠感などの強い全身症状を伴う.

【病因】原因菌は,コアグラーゼ試験陽性の黄色ブドウ球菌であることが多い.時にコアグラーゼ試験陰性ブドウ球菌(表皮ブドウ球菌:弱毒菌)が検出されることがある.外来患者においてもMRSA感染の頻度が増えている(市中感染MRSA).さらに,免疫低下患者においては,MRSA感染の可能性を念頭において診療すべきである.


診断

 好発部位に毛孔中心性の発赤・腫脹・疼痛を認めた場合には,癤を疑う.膿疱を形成していたり,波動を触知したりする場合は,穿刺や局所麻酔下での切開を行い排膿する.膿の細菌培養検査を提出することで,治療経過中に原因菌の確認ができ,市中感染MRSAを鑑別することができる.

【鑑別診断で想起すべき疾患】①炎症性類表皮囊腫:切開すると,膿汁とともに粥状内容物が排出される.②化膿性汗腺炎:頭頸部,腋窩,臀

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